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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

iPS細胞・山中伸弥教授のノーベル賞受賞、医学界で囁かれる理由

文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

 一方、ニボルマブは、先進国の一部の老人を長生きさせるだけなのに、年間の薬剤費は半額に下げても1,500万円を超える。あまりに高額なため、「ニボルマブが国民皆保険を壊す」という意見まである。その傍らで、医療費を抑制するために高齢者は病院から追い出され、リハビリなど慢性期医療は制限される。

 この状況で本庶教授にノーベル賞を与えれば、ノーベル財団がニボルマブを販売する小野薬品の宣伝をしているようなものだ。このように考えると、ノーベル財団が降圧剤、高脂血症治療薬(スタチン)、抗がん剤などの生活習慣病治療薬の開発者に、ノーベル生理学・医学賞を与えてこなかったことも納得がいく。

 ただ、これではあまりに本庶教授が気の毒だ。彼はがんの免疫を研究し、その成果が結果として臨床応用されただけだ。将来の特許収入やベンチャー企業の上場益を目的に研究したわけではあるまい。下手に臨床応用されてしまったから、ノーベル賞を逸したという見方さえできる。知人の国立大学医学部教授のなかには、「山中伸弥教授が受賞できたのは、iPS細胞を用いた治療の実現の目途がたっていないから」と言う人までいる。あながち、否定はできない。

金のためになりふり構わない製薬企業と医師

 高齢化が進む世界で医療費の抑制は喫緊の課題だ。一方で製薬企業の成長は著しい。17年10月現在、世界の企業の時価総額ランキング上位50社にはジョンソン&ジョンソン(9位)、ファイザー(28位)、ロシュ(32位)、ノバルティス(34位)の4社がランクインする。いずれもがん治療薬を主力商品とする。

 12年には東大病院を舞台にして、ノバルティスファーマが販売する白血病治療薬の研究不正が発覚した。つい最近、ロシュの子会社である中外製薬の抗がん剤を用いた臨床研究で、研究者の利益相反と保険の不正請求が行われていたことが明らかとなった。金と名誉のためになりふり構わない製薬企業と医師たちの振る舞いは、ノーベルの遺言と対照的だ。

 近年のノーベル賞は応用研究の受賞が増えている。今回のノーベル財団の決定は、彼らの良心を示したものだろう。なぜ、本庶教授がノーベル賞を逸したのか、今こそ、日本の医学界は虚心坦懐に反省し、社会の信頼を取り戻すよう尽力すべきである。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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