女性殺到の駅ナカ「コンビニクリニック」に勤務して驚愕した受診理由…日本医療の問題露呈
国民の貧血を改善するには、企業の協力が欠かせない。昨年から企業との共同研究を進めている。今年2月には、永谷園からは鉄分が入った「フルーツ青汁」が販売されたし、ロート製薬とも貧血対策の商品を共同開発している。山本医師は、これを大学院の課題にしたいと考えている。
性感染症対策は始まったばかりだ。梅毒以外、あまり議論されないが、我が国で性感染症が急増している可能性がある。もっとも多いのはクラミジア感染症だ。厚労省の定点調査では、2002年の4万3766件をピークに2016年には2万4396件に減少したことになっているが、おそらく低く見積もりすぎだ。2006年に今井博久氏が行った18才以上の735人を対象とした調査では、18才から19才の女性230人のクラミジア感染率は13.4%だった。米国の4.7%とは比べものにならない。
クラミジア感染は不妊を招く。クラミジア感染対策は、即効性のある少子化対策という側面もあり、欧米先進国は、国家を挙げてクラミジア感染対策に取り組んでいる。我が国とは対照的だ。ご興味がおありの方には「選択」(4月号)の記事『不妊の原因「クラミジア」感染が拡大中 少子化日本を襲う「性病」の脅威』をお奨めする。簡潔にまとまっている。
山本医師は、自著の中でクラミジアに感染した友人の女医の話を紹介している。この女医は山本医師に「クラミジア感染症に、まさか自分がなるとは思っていなかった」と語ったという。この女医は大学1年生からピルを服用していて、それ以外の避妊はしていなかったそうだ。性感染症になることはないだろうと思い込んでいたらしい。女医でも、この程度の認識だ。一般人は推して知るべしだろう。山本医師は「女性が自分の体を守るには、まずは知ることが大切」という。
大学医局の復権
彼女は若年女性における性感染症の認識を調査すると同時に、一人でも多くの女性に問題を知ってもらいたいと考えている。前者については、「ナース人材バンク」を運営するエス・エム・エスキャリア社と協力して、現状を把握するためのアンケート調査を行なった。現在、データ解析中だ。後者については、東大教養学部で生物を教える坪井貴司教授(総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系)と共同のプロジェクトを始めた。坪井教授は「大学生こそ知るべきです」といい、山本医師に対し教養学部での講義の機会を与えてくれた。「共同で教科書を出すことも考えている」という。
現在、医療界では専門医教育の在り方が議論されている。今春から始まった新専門医制度では、専門医資格を求める若手医師は各学会が認定するカリキュラムを選択しなければならない。その際、特定の基幹病院に所属し、そこから関連病院に派遣される。この制度では、大学教授が、取り組むべき課題、勤めるべき病院を次から次に用意し、若手医師をそのレールの上で無理矢理走らせようとすることになる。自分の頭で考えられない医師が出来上がる。筆者には、大学医局の復権を狙う時代遅れの制度にしか見えないが、初期研修を終えた医師の約9割が応募した。
山本医師のキャリアはこれとは対照的だ。この制度に乗らず、今回のキャリアパスを選択した。東京と福島の医療現場を往復し、臨床研究をやることになった。自分の頭で考えた選択だ。チャレンジを続けることで、若者は成長する。苦労もするが、実力もつく。コンビニ受診で逆を張った久住医師の存在は、その象徴だ。
これからの日本にどちらの人材が必要かは議論の余地はない。皆様、若者のチャレンジをご支援いただけないだろうか。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)