家庭裁判所に申し立てを行い発効させる手続きをすると、娘がお母さんのお金の出し入れをするのをチェックする人がつきます。これを「任意後見監督人」といい、通常は弁護士や司法書士が選ばれています。この監督人がつくと、任意後見が発効します。任意後見人がついていることの証明書も取得できます。これで娘さんがお母さんのお金の出し入れができるようになるのです。
任意後見は、お母さんが亡くなるまで続きます。亡くなると、お母さんの財産は、子供たちに相続されます。
任意後見監督人とは
任意後見監督人は、任意後見人(事例では娘)を監督する人です。娘は、お母さんのお金の出し入れの状況や、ほかの財産の状況を、監督人に報告しなければいけません。
また、不動産の売却といった大きな財産の処分などを行う場合、この監督人に相談する必要があります。任意後見の内容で認められている内容か、チェックしてもらうためです。
このように、任意後見では、お金の出し入れをできるようにすると、監督人が必ずつくのです。
任意後見は、できることにも制限がある
任意後見人は、お母さんのためであれば、お金を使うことができます。生活費や医療費、介護費などです。しかし、お母さんが元気なときに、「孫が大学に入ったら500万円出してあげるからね」と約束していたら、どうでしょう。
これは、“家族のためのお金”です。お母さんのためのお金ではありません。任意後見の契約書にその旨が書いてあれば、出せる可能性はあります。「可能性がある」と書いたのは、監督人との協議次第だからです。監督人の判断によっては、「No」と言われる可能性もあります。
また、お母さんがアパートを持っていたとしましょう。アパートが古くなり、空室も目立ってきた。外壁工事など大規模な修繕をしたい。この修繕を、任意後見人である娘ができるか、という問題もあります。これも監督人と協議が必要でしょう。大規模な修繕は、ある意味、投資的な行為です。多額のお金を使って修繕しても、空室が埋まるかはわからないからです。
このように、家族のための支出や投資的な行為は、できないかもしれません。
後見制度は“現状維持”が基本
成年後見はもちろん、任意後見でも基本は現状維持です。お母さんのためには、お金は使えます。しかし、家族のためや投資的な行為は、監督人との協議次第です。「亡くなるまで待ちましょう」と判断することもあり得ます。
お母さんが元気だったら、孫への教育資金の提供やアパートの修繕は行っていたでしょう。しかし、認知症になってしまうと、家族が任意後見人になっていたとしても、これらの行為ができるかどうかはわからなくなります。また、監督人も弁護士や司法書士などの第三者なので、年に12~30万円くらいの費用も継続的に発生します。
何かほかに良い方法はないのでしょうか。実は、あります。それが、家族信託です。次回は、この家族信託について、お話しします。
(文=川嵜一夫/司法書士、家族信託コンサルタント)