そんな中国・人民元のSDR入りについて、渡邉氏は「さらに、多くの問題がある」と指摘する。
「まず、今年のSDR構成通貨見直しの前提には、10年に合意したIMF改革案がある。これは、簡単にいえば新興国の発言権拡大などを認めるものだが、アメリカ議会は、まだこれを承認していない。IMFの最大の出資国であるアメリカが承認しない限り、SDRの構成通貨見直しを実行することは難しいといえる。
いわば、アメリカは“ちゃぶ台返し”のカードを持っているわけで、中国の人民元改革に対して、さらに強い圧力をかける可能性もあるだろう。
また、アメリカは南シナ海における『航行の自由』作戦において、中国とは軍事的な対立構造にある。いわば一触即発の状態であり、そこで何か起きれば、人民元のSDR入りは立ち消えになる可能性すらある。
さらにいえば、SDR入りするということは、加盟国が外貨準備に組み入れることができるようになるだけである。人民元が必ず外貨準備に採用されるわけではなく、そこは個別の判断になるわけだ。はたして、他国が先安観の強い人民元を選ぶだろうか。
また、通貨の安定性という意味でも疑問がある。米連邦準備理事会(FRB)は、日本銀行や欧州中央銀行(ECB)などの5大中央銀行と無制限の通貨スワップ協定を結んでおり、それぞれの国でドルが足りなくなった場合にアメリカがドルを供給することになっている。
しかし、今後、FRBが中国と同様の協定を結ぶかどうかはわからず、結ばれなければ、両国間で人民元とドルをスワップ(交換、両替)することはできない。その結果、人民元が国際通貨となって流通性が高くなったとしても、現実的にはリスクに脆弱な通貨であり続けるだろう」(渡邉氏)
念願のSDR入りを果たしたといっても、人民元および中国の先行きは不透明な部分が多いようだ。金融の自由化を無理に進めれば、バブル崩壊が決定的になるという中国の現状は、まさにジレンマといえるだろう。中国にとって朗報といわれるSDR入りが、実は中国経済の負の側面を露呈させることになるかもしれない。
(文=編集部)