2017年度の政府予算が成立し、いよいよ4月から新年度予算が執行されますが、住宅関連では「フラット35子育て支援型」がスタートします。当初の金利が大幅に引き下げられるもので、国の施策としての「同居・近居促進施策」が本格化、17年度はその元年になりそうです。
子育て世帯の金利を0.25%引下げ
まず、新年度の予算で動きだす「フラット35子育て支援型」とはどのような制度なのでしょうか。
これはフラット35を推進している住宅金融支援機構と地方公共団体が連携して実施するもので、地方公共団体が、国が提唱する「希望出生率1.8」の実現にむけて子育て支援を積極的に実施していること、住民の住宅建設・購入に補助金などの財政支援を行うことなどが前提となります。
こうした子育て支援に積極的な自治体に住む人などが、住宅を取得する場合、フラット35の当初5年間の金利が0.25%引き下げられます。対象となるのは、(1)(2)のいずれか。
(1)若年子育て世帯による既存(中古)住宅の取得
(2)若年子育て世帯・親世帯等による同居・近居のための新築住宅・既存住宅の取得
基本は中古住宅を買う場合ですが、親との同居や近居のための取得であれば、新築住宅も対象になるということです。従来、二世帯同居のためのリフォームへの支援制度はありましたが、取得にあたってこのように支援するのは初めてのことであり、“同居・近居促進施策元年”とする所以です。
他の引下げ制度と併用できるのがミソ
とはいえ、これまでもフラット35の金利引下げ制度が存在します。長期優良住宅、低炭素住宅など、基本性能が一定の水準に達している住宅を取得する場合には「フラット35S」として当初5年または10年間金利が0.30%引下げられる制度があります。また、中古住宅を買ってリノベーションする場合、あるいはリノベーションされた中古住宅を買った場合に適用される「フラット35リノベ」の引下げ幅は0.60%です。
であれば、何もいまさら0.25%引下げの新制度をスタートさせる意味はないのではないかという気もしますが、実はこの制度、他の引下げ制度と併用できるところがミソです。つまり、親と同居または近居するために「フラット35S」の対象になる住宅を取得する場合には、「フラット35S」の0.30%に、「フラット35子育て支援型」の0.25%を加えて、合計引下げ幅は0.55%になります。3月時点のフラット35の金利は1.12%ですから、そこから0.55%引いて0.57%になる計算です。
ただ、「フラット35リノベ」と組み合わせると、引下げ幅は0.60%+0.25%の0.85%になりますが、それは極端に過ぎることもあって、併用する場合には金利引下げ幅は0.60%とし、それに代わって引下げ期間5年の場合は7年に、10年の場合は12年にそれぞれ2年ずつ延長して、同等の引下げ効果が得られるようにすることになっています。住宅金融支援機構金融支援機構では、利用にあたっては取扱金融機関や住宅金融支援機構に問い合わせていただきたいとしています。
5年間の総返済額は約45万円の軽減
では、この金利引下げによる効果はどれくらいあるのでしょうか。
通常のフラット35の金利1.12%で、3000万円借り入れると35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は8万6373円です。それが、仮に「フラット35S」+「フラット35子育て支援型」で、合計0.55%の引下げが可能になった場合には、毎月返済額は7万8807円に、1万円近く減少します。
これが、5年間続くのですから、通常なら5年間で約518万円の返済額が、約473万円に減少します。45万円ほど負担が軽くなるわけです。
二世帯同居への補助金がある自治体も
今回の国の施策によって、地方公共団体も子育て支援のための施策に力を入れざるを得なくなってきます。
その先行事例として参考になるのが、すでに各種の助成策を実施しているケースです。たとえば、東京都北区では「三世代住宅建設助成」として、親・子・孫が同居する住宅を建設する場合、1戸につき50万円を助成しています。北区内に建設すること、住民税を滞納していないことなどのほか、床面積が95平方メートル以上で、居住室が4室以上あって、そのうち1室は高齢者の専用室とすること、高齢者に配慮した設備(段差解消、手すり)を設けることなどの条件があります。
同居ではなく近居のために住宅を取得する人が対象の「親元近居助成」もあって、その場合の助成額は1戸当たり20万円です。
同様の制度は千葉市にもあり、最大で50万円(市内業者と契約する場合には最大100万円)が助成されますし、東京都品川区の「三世代すまいるポイント」は、同居・近居のための住宅取得に対して、最大10万ポイント(10万円相当)のポイントが与えられます。
今後は、こうした制度を実施する自治体が増えるはずですから、その意味でも、まさに“同居・近居促進施策元年”といっていいでしょう。
子世帯の支出は年間90万円以上の削減効果
こうした支援制度を利用すれば、住宅の取得が有利になりますが、取得後の生活を考えても、特に子世帯側の経済的なメリットは小さくありません。
リクルート住まいカンパニーの「2014年注文住宅動向・トレンド調査」によると、二世帯住宅を建てた子世帯側では、38.6%が「住居費や生活費が削減できた」としており、その削減額は、住居費、食費や光熱費などの月額合計で7万6153円に達します。年間にすれば91万円以上の削減効果ですから、たいへんなメリットです。
現在のようになかなか賃金が上がらない時代、二世帯同居・近居は社会的な難題を解決するための処方箋になるのかもしれません。同居すれば、生活費を削減できますし、同居・近居なら親に子どもの面倒をみてもらいやすいので、待機児童問題を気にせずに共働きが可能になります。産業界、企業の働き方改革がなかなか進まないのであれば、家庭内で解決すればいいわけです。
こうしたメリットを考えれば、いよいよ二世帯同居、近居が増えるのは間違いありません。それに、国や地方自治体の施策が浸透してくれば、いっそうそれに拍車がかかるのではないでしょうか。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)