このところの為替相場は、円安ドル高へ急激に動いています。昨年の後半からは緩やかに円高ドル安の傾向が続いていました。今年の1月には、1ドル=104円前後まで円高が進んでいましたが、そこから急激に逆方向に動き、3月後半には1ドル=110円前後までドルが上昇しています。為替相場が円安ドル高に動いた理由は、アメリカの金利上昇です。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年に景気が大きく落ち込んだのは、アメリカも日本も同じです。2021年には回復に向かう見込みですが、そのペースが日米で違う予測になっています。IMF(国際通貨基金)の予測では2021年の経済成長率は、日本が3.1%なのに対し、アメリカは5.1%となっています。5.1%は先進国のなかでは、かなり高い成長率です。その上、バイデン政権による公共投資の拡大で、財政赤字も膨らみそうです。そのため、早くも金利が上昇し始めています。投資の拡大で、お金を借りる人が増えると予想されるからです。
お金を預けておく立場からすると、金利は高いほうが良いです。金利が低い日本で預金をしておくよりも、金利が高いアメリカでドル預金をしたほうが得だと考える人が増えても不思議ではありません。これは個人も金融機関も同じです。円をドルに換える動きが増えると、為替相場でドルが買われて、円安ドル高へと動いていきます。それが、ここ2~3カ月の為替の動きになって表れています。
為替相場に影響を与える主な要素
では、この傾向が今後も続くかといえば、そうとも限りません。逆に作用する要素もあるからです。為替相場に影響を与える主な要素として、主に次の3つが挙げられます。
(1)貿易収支:輸出をしたら、それによって得た外国(ドル)の通貨を国内の通貨(円)に換えます。それが多いと、その国の通貨(円)が買われて上昇します。50代以上の人であればかつて日本の貿易黒字が巨額で、円高ドル安が進んだことを覚えていることでしょう。ただ、最近はその影響力は小さくなっています。
(2)金利差:金利が上昇すると通貨の価値も上昇する傾向があります。日本とアメリカでは、常にアメリカのほうが金利は高いのですが、その差が広がるとドルが上がり、縮まると円が上がる傾向があります。冒頭にご紹介した、ここ2~3カ月の動きはこれで説明できます。
(3)物価の上昇:物価が上昇する国の通貨ほど、下がりやすい傾向があります。物価上昇(インフレ)は、通貨の価値が下がることで起きるからです。物の価値は変わりませんので、ある国の物価の変動は、国債的には為替の変動で調整されるわけです。
「(3)物価の上昇」の影響がわかりにくいと思いますので、例を使って説明しましょう。マクドナルドのビッグマックは世界中で販売されていますので、これを尺度にする例がよく使われます。日本では400円で販売されているビッグマックが、アメリカでは4ドルで販売されているとします。同じものが400円と4ドルですので、1ドル=100円になります。ところがアメリカで激しいインフレとなり、ビッグマックが8ドルになったとします。物の価値が万国共通であれば、円とドルの為替レートは1ドル=50円になるはずです。
つまり物価上昇は、物の価値が上がったわけではなく、通貨の価値が下がっただけだという理屈です。実際には牛肉の価格や人件費なども影響しますので、ビッグマックだけで説明するのは無理がありますが、物価全般の動きは通貨の価値の裏返しといえます。
強く作用する要因によって為替相場は動く
ところで、景気が良くなると、一般に金利は上昇する傾向があります。お金を借りて投資をする企業が増えるからです。「(2)金利差」の要因を踏まえると、景気が良い国の通貨は上がりやすいことになります。一方、景気が良いと物価も上がりやすい傾向があります。「(3)物価の上昇」の要因で考えると、景気が良い国の通貨は下がりやすいことになります。
なんだか話が矛盾しているようですが、どちらかは正しく、どちらかが間違っているというわけではありません。両方の要因が働いているのです。そして、その時その時の状況で、強く作用する要因によって為替相場が動きます。景気が良い国の通貨が、「(2)金利差」の要因で上昇することもあれば、「(3)物価の上昇」の要因で下落することもあるわけです。一般に、「(2)金利差」の要因のほうは比較的早く表れやすく、「(3)物価の上昇」の要因は長い時間をかけて効果が表れる傾向があります。
そう考えると、円とドルの為替レートも今の傾向が続くとは限りません。状況次第では逆に向かって動き出すこともありますので、注意が必要です。ちなみに、いろいろな物の物価を比較して、同じ価格になる為替レートは、計算方法によっても異なりますが、1ドル=100円前後が妥当という見方もあります。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)