土地神話の真の崩壊
1990年のバブル崩壊後、土地の値段は右肩上がりに上昇し続けるという、戦後に形成された「土地神話」は崩壊した。しかしその後も、住宅・土地の保有志向は弱まることがなかった。むしろ、価格下落は取得の好機ととらえられた。
しかし、最近の空き家問題や所有者不明土地問題の深刻化は、住宅・土地を持つことの意味を、人々に改めて問うている。取得した以上、最後まで責任を持たなければならず、資産としての価値がなくなったからといって安易に放棄することもできない。売却を含め、自分のあとに使う人がいない場合には、固定資産税の納付義務や管理責任を果たし続ける必要がある。
つまりは、取得したとしても最終的に処分できないような住宅・土地は、自分や子孫にとって重荷になるだけだということである。こうした認識が共有されつつある現在は、本当の意味での土地神話の崩壊過程にあると考えられる。
シェアリングエコノミーが広がりを見せているが、住宅についても今後は、必要な期間に、必要な広さや条件の住宅に住めれば十分で、必ずしも所有にはこだわらないという考え方が、じわじわと広がっていくのではないか。
ケアレジデンスに住み替え可能なマンション
こうした考え方の変化に応えるようなマンション供給の試みを行っているのが、東急不動産による世田谷中町プロジェクトである。マンション(ブランズシティ世田谷中町)とケアレジデンス(グランクレール世田谷中町)が同一敷地内で開発されている。マンションは70年の定期借地権付きマンションで、取得後に望めばケアレジデンス(賃貸)に移ることができる。その際、購入後5~20年の間であれば、その時点の80%の価格でのマンションの買い取り保証が付けられている。購入者にとっては高齢期の住まいの心配がなく、供給者にとってはマンションの人気を高く保つことができれば、居住者の新陳代謝を図ることができる。
つまりこのプロジェクトは、いったん買ったマンションに永住するのではなく、高齢期に住み替える前提で考えており、それを同一敷地内で実現できる仕組みをあらかじめ組み込んでいる。マンションを定借マンションにしていることは、購入者にとっては所有権付きの普通のマンションよりは価格が安いメリットがある。一方、供給者にとっては、定期期間満了後は必ず更地にして土地が返還されるため、マンションが寿命を終えて使うに耐えなくなった場合でも、建て替えや解体について区分所有者が合意できないまま放置されるような事態は生じず、更地になった時点で改めて最適な利用を考えることができるメリットがある。
現在の高経年マンションの悩みとしては、修繕積立金の不足により修繕が難しくなっていること、建て替えようにも資金面や合意面で実現できる目途が立っていないことなどがあげられる。そうしたマンションは中古物件としての価値もなくなっており、売却資金を元手に高齢者向けの住宅に移ることも難しくなっている場合が多い。しかし、世田谷中町プロジェクトのような仕組みになっていれば、このような悩みとは無縁である。所有権にこだわらなければ、取得後の出口(高齢期の住まい)があらかじめ用意されている合理的な住まいの取得方式と考えることができる。