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ダマされないための「儲けのカラクリ」 第9回

金メダルは損? オリンピックと税制の知られざる関係

文=坂口孝則/未来調達研究所取締役

アスリートと税法

 ところで、この米国の金メダル2万5000ドルには、やや肩透かしを食らう。

 ・銀メダル:1万5000ドル
 ・銅メダル:1万ドル

というから、日本の水準以下ではないか。もちろん、アスリートにとっては大企業のスポンサーからの報酬もあるだろうけれど、2万5000ドルだけを見ると、(少なくとも)私の予想よりもだいぶ少ない。

 ちなみに、このアメリカの金メダル報酬については、異なる観点からも論じられている。

 米国人アスリートにのしかかる「worldwide system of tax」という税制のことだ。米国人アスリートの中には、本国以外に居住している人たちもいる。しかし、この税制によって米国人アスリートは、金メダル2万5000ドルに対して、最高税率35%(8750ドル)を適用される可能性がある。

 さらに、米国籍をもっている以上、同じくこの「worldwide system of tax」によって、米国人アスリートは、金メダルそれ自体の資産価値に対し、さらに236ドルも課税されてしまう! 

 必ずしも米国人アスリートが金メダルで喜べない、といわれているのは、この税制のためだ。

 その一方で、日本人アスリートは、メダルの報奨金に税金はかからない。また、日本が採用している「territorial system of tax」によって、海外に居住している日本人アスリートは日本の税制の影響下にない。

米国人は、世界中どこにいても自国に納税

 この「worldwide system of tax」と「territorial system of tax」について紹介することは、多くの人にとって有益かもしれない。厳密な定義ではないものの、前者は「属人主義」と呼ばれ、後者は「属地主義」と呼ばれる。

 前者は、世界中のどこに住んでいようとも、税金を自国に支払うことになる。後者ならば、自国に住んでいなければ大丈夫だ。だから米国人アスリートは、どこに住んでいようと米国に税金を払う必要がある。

 一方で、後者は住んでいる「場所」が重要だ。後者においては、そのカラクリを応用することもできる。

 某経済学者兼元政治家(小泉元首相ブレーン)は、1月1日に日本にいなければ住民税を支払う必要がないことに注目し、元旦の前後にアメリカと日本の間で転出・転入を重ね、住民税の支払いを免れたと報道された。しかし、この行為も皮肉ながら、属地主義国に住む人からすると合理的選択ということもできる。

 その一方で、属人主義を採用する米国籍のトップアスリートたちにとって、最大の合理策は米国籍を捨てることにある。莫大な収入を稼ぐ彼らにとっては、「worldwide system of tax」から逃れることが、金メダル獲得と同様に、重要関心事項となる。

坂口孝則/未来調達研究所取締役

坂口孝則/未来調達研究所取締役

大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。サプライチェーン分野の知識を使い、ものづくり領域の先端解説などを行う。
未来調達研究所

Twitter:@earthcream

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