首里城火災で露呈、日本の世界遺産・重要文化財の「杜撰すぎる防火対策」…文化庁の怠慢
10月31日午前2時50分頃、世界遺産の首里城(沖縄県那覇市)で火災が発生し、正殿、北殿、南殿・番所、書院・鎖之間、黄金御殿、二階御殿奥書院、寄満、奉神門の9棟、計4200平方メートルがほぼ全焼した。11月4日には、同じく世界遺産の白川郷(岐阜県白川村)に隣接する観光客用の駐車場で、小屋2棟が全焼する火災が発生した。日本の国宝・世界遺産に対する防火体制は十分に備わっているのだろうか。
文化庁は8月8日、「国宝・重要文化財の防火設備等の緊急状況調査結果」を発表している。同調査によると、国宝や世界遺産に対する防火体制は必ずしも十分という状況にはないようだ。同調査は、4月15日に発生したフランス・パリのノートルダム大聖堂の火災を受けて実施されたもの。アンケートは、世界遺産・国宝・重要文化財の建造物と国宝・重要文化財の美術工芸品を保管する博物館等について、その防火設備をアンケート調査した。
消火設備の老朽化、火災訓練の未実施…
世界遺産や国宝の建造物は798棟(99.9%)が、重要文化財全体の4218棟(92.8%)が全部または一部木造で建てられ、これらの周囲の 6割が木造密集地であるなど、火災の潜在的危険性が高いと見られる状況となっている。さらに、以下の通り防火設備は十分な状況にあるとはいえない状況だ。
以上よりわかるように、世界遺産・国宝などでは、内部で火気を使用している建物も多く、不特定者が接近できるなど不審火の危険性も高い。また、可燃性の高い屋根材を使用している建物が多いことで、火災の発生の危険性も高く、火災が大規模化する可能性も高い。こうした状況に対して、自動火災報知設備や消火設備の老朽化が進んでいるとともに、設置されていないところまであるという杜撰な状況が浮き彫りになっている。
事実、過去(5年以内)に周辺で火災があったのは、世界遺産33棟(5.2%)、国宝で27棟(9.6%)、重要文化財で394棟(8.7%)、建造物での火災は国宝で5棟(1.8%)、重要文化財で21棟(0.5%)発生している。それでも、世界遺産の50棟(8%)、国宝の30棟(11%)、重要文化財の964棟(21%)では年に1度も火災訓練を実施していない。
文化庁、問題を認識しつつ対応は後手
今回は、世界遺産・国宝・重要文化財の建造物について取り上げたが、国宝・重要文化財の美術工芸品を保管する博物館等についても、ほぼ同様の状況にあり、十分な防火体制が備わっているとはいえない状況だ。
同調査では、こうした問題点について、「特に世界遺産や国宝について早急に対策を講ずる必要がある」と指摘し、「専門家や消防庁、国土交通省等の関係省庁と連携し、文化財の火災リスク等の把握と、それに応じた防火設備の整備の検討に資するガイドラインを今後新たに作成し、文化財所有者等や地方公共団体、博物館等に提供する」としている。また、「今回の調査により明らかとなった課題を解消できるよう、実地調査等も通じてさらに精査を加え、必要な整備等を把握し、国宝や世界遺産等を中心とした文化財防火対策について総合的かつ計画的に対応策をとりまとめ、防火体制を確立していく予定」としている。
しかし、この調査が発表されたのは8月であることを考えれば、文化庁は世界遺産・国宝などの“防火体制の甘さ”を十分に認識していたはずであり、十分な警鐘を鳴らし、危急の防火体制整備を呼びかけていれば、今回の首里城の火災が防げたかもしれないと考えると、残念至極だ。