有名・無名にかかわらず、経営者のほとんどは事業の拡大と会社の成長に心血を注ぎ、一般的にもそれこそが企業の「成功」だと思われている。
しかし、そんな中で、あえて「会社を大きくしない」という社訓を掲げ、独自の戦略をとる会社もある。
福岡に本社をもつ明光電子株式会社(以下、明光電子)は、年商60億円の電子部品専門商社。競争の厳しい業界にありながら独自の戦略と理念で存在感を示し続けている。
しかし、「会社を大きくしない」という独自の志向は他社に付け入る隙を与えることにもつながるはずだ。一体なぜこのような社訓を掲げているのか。
明光電子の創業者、十川正明氏は、著書『社訓「会社を大きくしない」』(ダイヤモンド社/刊)で同社の経営戦略について以下のように述べている。
■2つの顔を使い分け「ブルーオーシャン」を作り出す
電子部品と一口に言っても、その世界は広大で、多種多様な企業がしのぎを削っている戦場である。そこでライバルたちとまともに勝負をすると会社は疲弊してしまう。よく耳にするように、最終的に「低価格競争」に巻き込まれやすくなるからだ。
だから、十川氏は広い業界のなかで「明光電子」だけがもつ強みを作るために「2つの顔」を使い分ける戦略を取っている。
一つは、創業当時のモデルだった「高度な知識をもつ電子部品の専門商社」としての顔。ただ、これだけだと他の電子部品メーカーも当然営業をかけるため、顧客を奪い合うことになる。
そこで重要になるのが、二つめの「便利屋」としての顔だ。
「売上の八割は全顧客の二割が生み出している」という言葉があるように、効率よく売上を立てるのであれば、全顧客を対象にしたサービスを行うよりも、「八割の売上をもたらす二割の顧客」を対象にすべきだろう。
実際にメーカー各社はそのやり方でしのぎを削っているのだが、十川氏は正反対の戦略をとった。つまり「二割の売上をもたらす八割の顧客」を取りに行ったのだ。
この方法だと多様な組織や企業を相手に雑多な製品を販売することになり、役割として「便利屋」になってゆく。しかし、このような儲けが薄く、手間のかかることをメーカーはやらないため、競合することがないどころか、「あの部品がほしい」「この材料が欲しい」という要望に応えることでメーカーと補完関係を築いているという。
「専門商社」と「便利屋」。この二つの顔によって、明光電子の前には競合のいない「ブルーオーシャン」が拓けたというわけだ。
こうして業界の中で唯一無二の立ち位置を築いてしまえば、やみくもな会社の拡大は必要なくなる。十川氏は明光電子の今後について「必然的に大きくなるのは仕方ないが、拡大のための拡大はしない」としている。