織田信長、天下統治の秘密は茶道具の価値変革…ナイキやゴディバ等の経営戦略の先駆け
今日、ラグジュアリーブランドとして考えられているブランドの多くは、王室や貴族などの上流階級が愛顧していた商品にそのルーツをもっています。たとえば、ウェッジウッド(Wedgwood)は18世紀の陶工、ジョサイア・ウェッジウッドによって創業されました。ジョサイアは画期的な乳白色の「クリームウェア」を産み出しました。ウェッジウッドは英国やロシアの王室で用いられ、米国のホワイトハウスでも使われるようになります。それだけでなく、19世紀に勃興してきた中産階級のために買いやすい価格のテーブルウェアを提供したのです。
また階級的な差異でなくても、ナイキのようにトップアスリートがもつ価値観をアスレティックシューズに取り入れ、それを一般のスポーツ愛好者に広めるという戦略もあります。さらには、異なった文化の世界観を取り入れるやり方もあります。たとえば、化粧品の「ロクシタン」は、プロバンス地方のライフスタイルを取り入れています。
これらの例を通じてわかるように、顧客の価値観を転換させようと思ったら、まず異なる価値体系から新しい価値をつかみ取ってくることが必要になるのです。
信長から学べるもうひとつのポイントは、(2)贈与行動での価値転換ということです。これは別の言い方をすれば、ギフト市場において新しい価値を導入することが、通常の購買行動よりも行いやすいことを意味しています。
これは、なぜでしょうか。ギフト=贈与という行動は、普通の購買活動とは異なった点があります。普通の購買であれば、すぐに自分の生活に役立つ価値さえあれば十分なのですが、贈与においては、たとえ少し余分なコストを払ったとしても、より大きな価値のものを贈ることによって相手を圧倒することができるのです。
これは贈与という行動が、ギブ&テイク、つまり贈ることと返礼=お返しという原理に基づいているからです。より大きな価値のものを贈ることで、贈られた相手は心理的な負債を負い、より大きなお返しをしなくてはなりません。このために、ギフト市場で新しい価値を導入することは可能であり、同時に必要であるということになります。
たとえば、高級チョコレートのゴディバは、20世紀のベルギーにおいて「トリュフ」とばれる粒チョコレートを考え出し、「バロタン」と呼ばれるゴールドのギフトボックスで発売しました。また、豪華なウィンドウ装飾を通じて、プレミアムブランドとしての地位を確立したのです。このようにチョコレートという商品をギフト用に転換することに成功したのがゴディバなのです。