湾岸タワマンと郊外の新興住宅地に、家は買ってはいけない?資産&住環境上のリスク
もちろん、たとえば地元のランドマークになっているようなマンションなどは、経年によっても価値が保たれる「ヴィンテージマンション」になる可能性を秘めていますし、地方都市でも駅直結で即日完売したようなマンションであれば、地元の人が買いたい物件であることが多く、つねに購入待ちの客がいるなど価値は下がりにくいでしょう。
しかし、一般の人にはなかなかそういう物件はつかみにくい。そこで、下がってもその下落幅がそう大きくないとか、ローン残債が残らない程度の値段で売却できそうな物件を選ぶのです。というのも、単純に資産価値を守るという意味では、買ったときの値段よりも、売るときの値段があまり下がっていなければ、一応の成功といえるからです。
必ずしも都心の一等地や高級物件である必要はなく、仮に郊外の物件でも、十分に値段が下がった価格で買えばさらに下がる余地は限定的なので、売っても損失は小さい。つまり、高級な場所でなくても、あまり人気のない場所であっても、十分に下がった値段で買っておけば、想定されるキャピタルロスは小さく、資産価値を維持できるということです。
確認する方法は1.と同じです。これによって、将来はいくらで売れそうか、だいたいの相場観がつかめるでしょう。ただ、売買価格は賃貸の家賃とは違い、景気や経済環境、銀行の融資姿勢などいろいろな要素の影響を受けやすく、比較的大きく変動します。だから実際にはどうなるかわかりません。しかし、貸せる物件であれば売却の難易度もそれほど高くはないので、順序としては第3位というわけです。
「貸せる」と「売れる」は、似ているが異なる
もうひとつ、家賃と売買価格は必ずしも比例するとは限らず、家賃は高くとれるけれど売買価格は安い、あるいは売買価格が高い割には家賃がとれない、ということがあります。
たとえば東京でいうと、世田谷区や目黒区など、山手線の西側は住宅地として人気がありますから、足立区や墨田区といった東側よりも、高い値段で売買されています。しかし家賃は、駅から近い物件では売買価格ほどの大きな開きはありません。
これは、売買と賃貸とでは価格の形成メカニズムが違うためです。端的にいうと、売買価格は住宅地や物件のグレードなど「人気度」で決まり、家賃は都心や駅からの距離や広さなど「利便性」で決まります。賃貸物件を借りる人は便利さに対して家賃を払いますから、一般的には都心に近く駅にも近ければ家賃も高く、都心から離れ駅からも離れるほど安くなります。そのため、1.はプラスになっても、3.は大きなマイナスになる、ということがあるのです。
一方、売買では便利さだけではなく、街の雰囲気や世間的なイメージ、住所や物件のグレードなども価格のなかに含まれます。買い手は、環境面も含めた総合的な要素に対してお金を支払います。ときには利便性よりも住宅地としてのブランドが優先されることがあります。住所が23区内であること、自宅の固定電話が「03」であることにこだわる人も少なくありません。
そのため、たとえば渋谷区松濤などは、駅から15分以上離れても都内トップレベルの価格を維持していますし、港区広尾や陸の孤島といわれる西麻布なども同様です。すると、高級住宅地になればなるほど、賃貸に出すと住宅ローンの返済額よりも家賃が低い、という状況になりやすい。つまり、1.はマイナスだけれども、3.はプラスになりやすいのです。
最もバランスが良いのはどこか
そう考えると、一般的にではありますが、都心から電車で30分圏内で、駅から徒歩10分以内の中古戸建てや中古マンションなどが、上記3つのバランスがとれているといえそうです。ただし、新興住宅地のように評価が定まっていない場所ではなく、街の歴史が古く、駅前は地元商店でぎっしり埋め尽くされ、昼間から人が多く闊歩しているような街が望ましいでしょう。
都心から電車で1時間ほど離れた郊外の新興住宅地の駅前には、地元商店は少なく、大きなスーパーやショッピングモールくらいで、確かに週末には賑わいますが、平日は割と閑散としています。それはつまり多様な人種の多様な需要が少ないということであり、高齢者やファミリー世帯という、同じような属性・社会階層の人が多いことを意味します。そうしたエリアは都心からは遠く不便なため、子はいずれ街を出ていきます。そして住民の高齢化とともに街全体も高齢化し、若者に人気がなくなるリスクがあります。
しかし、都心からそれほど離れず街にほどほどの歴史があり、さまざまな階層の住民で活気があふれる駅前を擁する場所であれば、住民の新陳代謝が続いているということですから、住宅需要、つまり資産価値も維持されやすいといえます。
こうした「そこそこ便利でそこそこ暮らしやすい街」では、手ごろな価格で買えるうえ、貸す場合でも売る場合でも、「さほど裕福ではない大多数の人」という巨大なマーケットに支えられる可能性が高いでしょう。
逆にバランスが悪いのは、いうまでもなくバス便など徒歩では行けないほど駅から離れた、郊外の新興住宅地にある戸建てやマンション、そして湾岸のタワーマンションかもしれません。
首都圏に限らず大都市部では、郊外で駅から遠いのは致命的で、賃貸でも売買でも人気がなく、将来は貸すにも売るにも苦労するようになります。そして今後人口が減少して住宅需要が細っていけば、ますますこの傾向は強くなるでしょう。ただし、思いっきり安値で買えるなら3.は満たされそうです。満足度という観点からは、もし都心の会社に電車で通勤、あるいは通学という場合、毎日のこととなると大変です。
湾岸のタワーマンションもなぜバランスが悪いかというと、前回指摘した供給過剰や割高感の観点から、2.は満たされても1.と3.に不安が残るからです。また、高層タワーマンション自体の歴史が浅いため、大規模修繕などは未知の世界です。外壁修繕は足場が組めないため高コストなゴンドラ作業になるわけですが、修繕積立金が足りない物件も出てくると考えられます。
そして建物が寿命を迎えたとき、建て替えでは所有者の拠出金額はいくらになるのか。1,000戸を超すような大型物件の場合、住人はどこへ仮住まいするのか。埋立地ゆえに、もし大きな地震が起きて地盤が液状化した場合はどうなるのか。建物そのものは大丈夫でも、生活インフラはどうなるのか――。
さらに昨今は、居住環境が悪化していることも指摘されています。場所によって違いはありますが、人口急増によって通勤ラッシュは激しくなっており、保育園や小学校も追いつかなくなっているエリアもあります。スーパーなど生鮮食料品を買う店も少なく夜は真っ暗。エレベーター待ちの時間もあり、都心には近くてもドアツードアでは通勤もそれなりに時間がかかる。将来は解決される問題かもしれませんが、それほど便利というわけではない、と湾岸エリアの高層タワマンに住む私の知人はこぼしています。
にもかかわらず、こうした物件が現状のように高額で取引されているのは、外国人投資家や相続税対策などの富裕層、そして高所得会社員世帯の需要に支えられている側面があり、早晩この仮面がはがれる日がやってくるかもしれません。それこそ、もし金融緩和の方向性が変われば、金利の上昇など融資環境が悪化し住宅市場が冷え込む可能性もあります。2019年には消費税増税、20年には東京オリンピックというビッグイベントの終了(そして選手村の市場放出)など、景気押し下げ要因が指摘されています。
以上は私の一方的な見方であり、家選びは10人いれば10通りの考え方がありますから、これが正しいというわけではありません。また、終の棲家とするつもりであるとか、子が相続するなら、貸したり売ったりすることもないので資産価値とは無縁です。
とはいえ、どのような状況に直面するかはわかりません。転勤がない会社だと思っていても、会社そのものがなくなるかもしれない。一生このままだと思っても、何かに挑戦したくなる日が来るかもしれない。そのときに家に縛られ身動きできず、チャンスを逃すという事態は避けたい。
そこで、考え得るリスクを認識しておくだけでも、将来の選択肢が広がるだけでなく、不安軽減や満足度の高い家の購入につながるのではないでしょうか。
(文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役)