実際にエビングハウスというドイツの心理学者が、無意味に並んだ3つのアルファベットを被験者にたくさん覚えさせて、その記憶がどれくらいのスピードで忘れられていくかを実験しました。
すると、20分後には42パーセントと、およそ半分が忘れ去られていました。1時間後には56パーセント忘れ、1日経つと74パーセント忘れます。つまり、意味のない情報は1日経つと4分の1しか記憶に残っていないんですね。逆に覚えることのできた25パーセントは1週間後も、1カ月後も割合覚えているそうです。
この記憶が長期記憶です。長期記憶は、短期記憶の中から重要だと頭が判断して選んだ記憶です。長期記憶には主に3つの種類があるとされています。
1つ目は、「意味記憶」です。これは机の上の勉強で得た知識や、人の名前などの記憶です。
2つ目は「エピソード記憶」です。これは、過去の経験や出来事に関係した記憶です。
3つ目は「手続き的記憶」です。自転車の乗り方など、体を使って覚えた記憶です。
この3つは、今お話しした順番で忘れにくくなります。いずれも強く記憶に残すためには、繰り返し学習が必要になります。学生の頃は時間がふんだんにあり、勉強することが本業でしたから繰り返しが可能でしたが、社会人はそうはいきません。言ってみれば毎日の仕事そのものが試験のようなものです。そんななかでどうしたら効率よくものが覚えられるのでしょうか?
知っていることが増えるほど記憶力は増す
その答えは、興味を持つことです。
なんとありきたりな答えだと思った人もいるかもしれません。でも、考えてみてください。好きな人の住んでいる場所やメールアドレスは一発で覚えられますよね。自分が好きなことの話は友達に何時間でもできますし、料理が好きならレシピはすぐに覚えられます。興味を持てば、深く知ろうと自然に思うものですし、その過程ですでに自分が知っていることとの関連性が必ず出てきます。関連が頭のなかにつくられれば、強く記憶され、また思い出しやすくなるのです。
たとえばバンバンジーという料理が好きだけれども、どうしても自分のつくり方だと鶏肉が固くなってしまう問題を解決したいとしましょう。いろいろなレシピを見ると、「鶏肉はお湯を沸騰させずに20分ゆでる」と書いてあるものがあります。今までは強火で5分がいいと思っていたのだけれど、なぜだろうと、お湯を沸騰させない理由を詳しく調べてみれば、お湯の温度が高くなりすぎると鶏肉が固くなるからだとわかります。そして自分で試してみたらお店で出てくるような軟らかいバンバンジーができた……。
レシピに書かれている調理法を作業順序だけでなくその理由をきちんと理解し、実践すれば、厚切りステーキを軟らかく焼いたり、ぶりの照り焼きをふんわり仕上げたりすることもできるようになるでしょう。
ですから、ひとつのことを深く学ぶのはちょっと面倒に思えますが、実はそれが一番の早道ですし応用も利きます。
このように考えていくと、物事を知れば知るほど、経験を積めば積むほど、理解できることや、記憶に残ることが増えていくはずです。その増え方は直線的というよりは、二次関数的です。ですから年を取って脳の働きが悪くなって物忘れがひどくなったというのは嘘で、実際は物事への興味が失せていたり、調べ方がいい加減だったりすることが理由です。
物事を覚えるベストな方法は、まず興味を持つ、調べる、ストーリーを知ることです。そうすれば、結果として記憶に残る物事が増えていくというわけです。
さて最後に、私が話の途中で触れたポンドの単位でもやもやしている人に、ストーリーをお話ししましょう。1ポンドはおよそ453グラムです。もともとは、古代メソポタミア地方で、ひとりの人が1日に食べるパンをつくるための小麦の量として使われ始めたのが起源といわれています。皆さんパウンドケーキを見たことがありますよね? カタカナの「ポンド」は英語ではpound(パウンド)と発音されます。
パウンドケーキは小麦粉、バター、砂糖、卵をそれぞれ1ポンドずつ使ってつくることから、こう呼ばれるようになりました。ですからパウンドケーキをイメージしてもらえば1ポンドがどれくらいの量かを思い出すきっかけになりますね。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)