平成の後半は「出版不況」という言葉をよく聞いた。
事実、出版科学研究所の「日本の出版統計」によれば、書籍の推定販売額は1996年をピークに低落傾向が続いている。
電子書籍の普及や書店数の減少など様々な変化が起きている中で、新たな潮流として注目を集めているのが、一人や少人数の仲間とともに、自分たちが面白いと思う本作りに邁進する「小さな出版社」の存在だ。
そのワクワクするような個性的な本作りについては、全国の出版社55社が出版しているおもしろい本を紹介するブックガイド『一度は読んでほしい 小さな出版社のおもしろい本 2019』(三栄書房刊)を読むとわかるだろう。
例えば、福岡県の書肆侃侃房。創業は2002年。「かつては福岡で出版を本格的に始めるのはリスキーだった」と代表の田島安江さん。しかし、「今では時代が追いついてきたという気がします。ネットやSNSが普及しはじめ、地方にいても支障はない。むしろ好きな出版ができる。大手出版社の事情を知らなくてもいい、などは幸いしたかもしれません」と語る。
その書肆侃侃房の意欲を感じられる出版物の一つが、文芸ムック『たべるのがおそい』だ。作家、翻訳家、ミュージシャンなど多彩な活動を行う西崎憲さんが編集長となり、小説、翻訳、短歌、エッセイなどを多様な作品を掲載。4月15日に刊行された第7号で惜しくも終刊となったが、これまでに2度、芥川賞候補作品を出している。
また、短歌の新人賞となる笹井宏之賞を創設、短歌ムック『ねむらない樹』を創刊するなど、歌集の世界で多くの歌人を世に輩出し続けている。
また、地方に特化した出版を強みとする出版社も多い。その一つが秋田県の無明舎出版。1976年に出版専業社となり、これまで1300点におよぶ本を世に出してきた。テーマは地元・秋田や東北の地域が中心。そんな無明舎出版の安倍甲さんが本づくりで大切にしていることは「奇をてらわず真正面からテーマに向き合うこと」。ラインナップには、その信念が詰まった本が並んでいる。
「これからの本づくり」を語る巻頭の座談会をはじめ、このムックにはこれからの出版業界に対して期待を持つことができる内容が満載。330冊の本が紹介されているので、ブックガイドとしても役に立つはず。令和の時代を代表する本は、このムックに掲載されている出版社から生まれるかもしれない。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。