里岡 ありますね。どちらかというと、話を聞くのは女性のほうが得意なのではないでしょうか。男性はうまいあいづちを打つのが苦手で、言い訳をしてしまったり、自分の話にすり替えてしまったりという傾向が見られます。つい「お言葉ではございますが」と相手の話を遮って、口を挟んでしまいがち。でも話し始めの段階でこれをやってしまうと、相手を逆上させてしまうから要注意なんですよ。
また逆に黙って聞いているだけで、相手に「本当に聞いているのか?」という不満を抱かせてしまったり。人の話を聞くとき、男性は用件から聞きたいもの。ですが、女性は自身が「聞いてくれればそれでいい」ところがあるので、相手にもうまい相づちを打ちつつ、そのように対応するんですよね。
–すると、クレームを言う側としては、男性と女性、いずれに言うといいかというと……。
里岡 私が言う側なら、女性に言うでしょうね。女性のほうが共感能力が高いですから、相手の気持ちをくんでから解決しようとする。でも男性は、まず解決しようとしますから、言う側は共感されていないと感じて、心が置いてけぼりになってしまうんです。
また女性は個として対応する傾向にありますが、男性はよきにつけあしきにつけ、集団に忠実。具体的にどういう言葉に表れるかというと、女性は「私は〜」。男性は「会社といたしましては〜」なんですよね。どちらも一長一短だと思います。ですから、男女、それぞれの特色を生かして対応に当たればいいのではないでしょうか。役割に見合った男女の特性を生かすということです。
●人材育成、苦手なことは得意な人に頼む
–里岡さんはチーフパーサーとしてCAの方々を取りまとめたり、また人材育成もされてきたかと思います。人材育成の際に、最も大切にされてきたことは?
里岡 人の上に立って指導する立場になると、「育てよう」と気負うあまりに、強い態度に出てしまう女性も多く見受けられますよね。
若くして役職に就いた方などは特にそういう傾向があって、でも残念なことに、それでは周りが引いてしまうんですよ。ですから、私は人の上に立つ身になってからでも、苦手なことは得意な人に頼むようにしていました。
–上の立場でありながら、自分の苦手なことを人に頼むというのは抵抗がある、うまくできないという人も多いと思います。
里岡 恥ずかしいという意識があるようですね。私はそもそもできないことはできないこととして自覚しているし、いろんな方に助けられてきた人生でしたから、気負うことなんてありませんでした。人に頼まない、頼めない方って、私からすると、「そんなに自信があるんだ」って思ってしまいますね。優等生タイプに多いのかな。気負って、周りが離れてしまい、みんなついてこないし、仕事もおもしろくない……という悪いスパイラルに入ってしまっている方もいましたね。
–そうならないために大事なことはなんでしょうか?
里岡 「自分という人間は、自分以上でも以下でもないことを認識する」ことだと、私は考えています。たとえなんらかの役職に就いたとしても、経験したことのないシチュエーションだってあるはず。やっていないことをやれと言われても酷な話ですし、周りだって、実はそこまでは求めていないもの。その役職にあるからといって、すべてがこなせるとは誰も思っていないわけですよ。
だから気負う必要なんて何もなくて、できないことがあっても、それは自分にはそこまでのキャリアしかないから仕方がないんだと。ただそれでもこの役職にあるということは、背負わなければならないもの、担わなければいけないこともある。でも、誰しも当然できることとできないことがあるよね、だからみんな助けてね、と。そう考えれば、苦手なことを人に頼るのなんて、なんら難しいことではないと思います。
–先ほど、里岡さんご自身も、苦手なことは積極的に人を頼るとおっしゃいましたよね。目下の方に対しても、そうされていたのですか?
里岡 もちろんです。チーフパーサーになろうが、どんなに上の立場になろうが、「苦手なんだけれど、協力してもらえる?」というお願いはしてきましたね。
だって、私よりいいものを持っているCAがほかにいるのならば、そこは感情ではありませんから。
トップに立つと、なんでも自分でやらなければとか、すべて自分でこなせなければ、このポジションにいてはいけないのではないかとか思ってしまう人もいるようですが、いいんですよ。
自分がそのポジションを選んだわけではなく、周りが選んでくれたんです。それだけの理由があるはずなんですから、「いいんだ、ここにいて」と当然思っていいんです。
–人の上に立つ者、CAであればチーフパーサーなどになるのだと思いますが、そういった立場に立った時に大切なこととはなんでしょうか?
里岡 チーフパーサーとはなんのためにいるのかという原点に立ち返って考えれば、チーフパーサーは全体を把握しなければなりません。機内でお客様の過ごされる時間の演出をするわけですから、自分に余裕がなければなりませんよね。いっぱいいっぱいになってしまうと、いい仕事ができないんです。ましてや、お客様は毎回違う方が搭乗されているのですから、自分が手いっぱいだと、何かあったときに慌ててしまうんですよね。