この「ターゲット採用」をめぐり、11月27日配信の日本経済新聞電子版記事(http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK26032_W3A121C1000000/)は、「景気拡大による採用増により、学歴フィルターのレベルを下げる動きが出ている」と報じたが、このまま鵜呑みにしてはいけない情報である。確かに記事中にもあるとおり、「これまでMARCHでフィルターを設定していた企業は日東駒専へ」「日東駒専フィルターの企業は大東亜帝国(大東文化、東海、亜細亜、帝京、国士舘)へ」といった動きがあることは事実だが、それはあくまで「門戸を広げて多様性を確保する」ことが主眼であり、決して「採用基準を低く設定した」わけではないことを理解しておきたい。
大学入試に偏差値という指標があるように、就活にも相応のレベル感というか、格のようなものが厳然と存在している。結局大手一流有名ブランド企業には上位校の学生が多いし、中堅企業には中流大学、そしてブラック企業には底辺校、といったマッチングがなんとなくでき上がってしまうのが現実だ。そして各企業は、「どのレベルの大学なら、その大学のトップレベルの学生を採用できるか?」と考えてターゲット校を設定し、そこにリソースを集中投下して採用活動を行っているのである。
景気回復しようがターゲット採用の間口が広がろうが、結局厳選採用であることは変わらず、しかも短期決戦である。一部メディアの楽観論に踊らされてはいけない。
●自らの価値観に合致する企業を選ぶ
就活生が今日からまずやるべきことは、14年4月末までの行動予定を立て、具体的な行動をすぐに進めていくことだ。エントリーと自己分析、職種研究を並行して行い、自らの価値観に合致した仕事選び、会社選びをやっていってもらいたい。
特に大切なのは、「自らの価値観に合致する企業を選ぶ」という点だ。世間がいくらその企業を「ブラック企業」と揶揄しようが、自らの価値観に合致し、求めるもの(収入、経験値、自分の時間など)が得られる環境ならば、その人にとっては「いい企業」である。逆に、世間が「ホワイト企業」と持ち上げたとしても、その人の価値観に合致してなければ、入社後の生活は苦痛に支配されるだろう。
就活がまだ1年以上先の学生は、ぜひ社会に揉まれ、多くの社会人とコミュニケーションをとる機会を意識的に持ってみるとよいだろう。どんな仕事に就くにせよ、結局は人とのコミュニケーションが主軸となる。実際、学歴を超越して多くの内定を得ている学生に共通しているのは「高いコミュニケーション力」であり、「物怖じせず行動する力」であり、また「極限状況でもめげずにやり切る力」である。
それこそ、ブラックと呼ばれるくらいハードワークで知られている会社でアルバイトやインターンシップなどをこなしてみるくらいがちょうどよい。多様な経験を踏まえることで、自分の価値観も明らかになるだろう。「やりたいこと」は「考えて思いつく」ものではない。実体験を通して「気づく」ものだからだ。
そもそも2年前、採用活動の開始が繰り下げられたのはなぜだったのか? それは、「学生に学業を全うさせるため」だった。学生には、やるべき学業を確実にこなしてから、それ以外の活動に力を入れていっていただきたい。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)●新田 龍(にった・りょう):株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト。
早稲田大学卒業後、「ブラック企業ランキング」ワースト企業2社で事業企画、人事戦略、採用コンサルティング、キャリア支援に従事。現在はブラック企業や労働問題に関するコメンテーター、講演、執筆を展開。首都圏各大学でもキャリア正課講座を担当。