大江 でも、生命保険業界はとても大きな企業が多いですからね。営業の人たちがたくさんいて、彼ら全員を食べさせるためには大変だと思います。ライフネット生命のように、インターネット上で商品を売って、コストを下げようとしているところですら、そうですから。
――ライフネット生命が登場した当時はかなり騒がれましたよね。ライフネット生命のモデルは業界内においても革新的だったのですか?
後田 ネットということにこだわらず、『営業集団を抱えていない』ところがポイントだと思います。また、相対的に情報開示も進んでいます。一方で、対人交渉力が弱い(笑)というのはありますね。
面談相手が特に必要性を感じていないことでも、潜在的な不安を喚起することで『やっぱり入るべきかな』と考えを変えてくれる人もいますからね。
大江 対人取引の強みはムードと信頼作りですね。これはインターネットでは難しいですよ。
――また、不安を煽るというところでは、例えば芸能人や著名人の方ががんに罹ったとか、がんで亡くなったときに、大々的にそれが報道されて、連日テレビでその病気の説明がなされます。こうしたこともセールストークの材料になるのですか?
後田 そうですね。がん保険のセールストークをするときには、重宝します。
大江 よく使われるデータとして、今、二人に一人ががんになる時代です、と。確かに生涯でがんに罹る確率は58%と国立がん研究センターから出ていますが、実際にがんに罹る人が多いのは60代から70代です。50代未満では2%だし、40代は0.9%だというデータがあります。だとすると、がん保険に入る最適な時期はいつかという判断はかなり変わってくると思いますね。
――では、我々一般人は、どのような時に生命保険への加入を検討すべきか、ご意見をください。
後田 商品の仕組みから考えれば、子どもができたときだけですね。入らないに越したことはないのですが、入るとすれば、子どもができて、お子さんが自立するまでの間、加入するということは選択肢としてあります。
大江 その場合も、自分が死んだときに遺族年金が国からどれだけ出るのかという計算はした上で検討すべきでしょう。たとえば、ちゃんと国民年金を払っていて40代後半くらいで亡くなったときに、子どもがまだ小学生くらいならば、原則18歳の年度末までの間、月に15万円くらいは国からもらえます。その額は決して少なくないですよね。さらに勤務先によっては、弔慰金などが出るところもあります。その不足分を補うために保険に入るという考え方をするといいですね。
後田 見分け方として、昔からずっとラインナップにある保険には、それなりの価値があるはずです。世帯主が一定期間、死亡保障を持つための保険などは定番中の定番ですよね。
――例えば、子どもがいない夫婦がいたときに、妻から「生命保険に入ったほうがいいよ。もしものことがあったら私たちどうなるの」と聞かれたら、夫はなんと返答するのが良いのですか?
大江 『じゃ、俺が死んだらどこからどれだけお金が入ってくるか、一度考えてみよう』と返答するのがベストです。国からどれだけお金が入るのか、会社からは…と書きだしてみるのです。その上でまだ足りないときに、検討するといいでしょう。
後田 奥さんが知人と情報交換する中で出た体験談がきっかけになるようなケースもあると思うんです。でも、周囲の意見等を判断材料にするのは危険ですよね。深く保険について学んだ人がどれだけいるのかと思うと、周囲の声は気になるかもしれないけれど、参考にすべきではないでしょう。
――そういったケースの場合、だいたいは相談員の受け売りみたいなものですよね。
後田 相談員も結局は販売員ですからね。
――では、『生命保険の嘘「安心料」はまやかしだ』についての読みどころなどを教えていただければ幸いです。
後田 生命保険に限らず、消費行動全般に共通することを書いています。でも、難しい内容ではなく、読みものとして楽しみながら学べると思います。
大江 私たちはものを買うときに、非合理的な行動をとるものです。それは仕方のないことであって、非合理的な行動はしないと頑張っても無理なんです。人間ですから。
それを防ぐためにどうすればいいのか、一つは非合理なものに流されない仕組みとルールを作ることです。もう一つは消費者が“常識”で判断するということです。これが私たち2人のキーワードです。知識よりも常識です。