この仕事は、世間慣れしていない新人には困難で、デスクワークが多い企画マンがいやがる仕事だ。まして管理職ともなれば、体面を気にしてますますやりずらい。
A君は、デスクワークが得意でなく管理職でもないから、これができる。重要な仕事であることがよくわかっているし、困難であってもバラエティに富み、社内でその情報が実に重宝されるから、むしろ楽しみながらこなすのである。
A君には、デスクワーク中心の企画やセールス、管理職候補になる話もあった。しかし、机に向かい続ける仕事や、ノルマのある仕事をしたいとは思わなかった。また、人を使うというのが苦手で、なんでも自分が直接手掛けられる仕事を続けたかった。自分勝手といえばその通りだが、幸か不幸か、社内にA君の仕事を代わりにこなせそうな候補者がいなかった。こうした事情もあり、「かけがえのない人間」として、A君は自分の好きな仕事を続けているのである。
自然と周囲に人が群がる
同期や後輩、そして上役も彼に一目置き、時々相談をもちかけたり調査を頼んだりする。その生き方、多彩な趣味の世界(カメラ、オートバイ、エレキ、ボーカルなど)、デジタル機器にめっぽう詳しい点に惹き付けられて、若い社員が彼の周りに群がり集まる。
この趣味の世界が、商品企画に必要な感性をずいぶん豊かにし、人脈を社外に広げている。このことは、当然、市場調査でもずいぶんプラスに働いている。
例えば、「カメラが趣味」ということが、会社のデジカメ商品の市場調査や企画そのものに決定的にプラス働く。また、「音楽に強い」ということは、宣伝予測や効果測定において、宣伝部に対し有効な提案や意見を出せることにつながっている。そしてなんといっても、感性が豊かであるということが、さまざまな案件について、直観的に広い視野で判断できるということにつながっている。商品によって、商品モニターになってもらうユーザを適切に選ぶこともできる。試作品のデジカメをカメラ仲間数人に手渡して、彼らの多くの仲間たちの声を集めるということが可能なのだ。
報酬はお金だけではない
A君の収入は、同期と差があるかもしれない。しかし、報酬はお金だけで量れるものではない。自分らしく生きて、しかも「会社の役に立っている」という実感が、A君にとっての報酬でもあるのだ。