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著作権法やTPPと闘うための最終兵器「ライセンス」は、なぜこんなに“面倒くさい”?

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筆者提供
 ある日のこと、私(江端)は嫁さんに質問してみました。

江端 :「バナナ園の主人である私は、ある時、過剰豊作となってしまったバナナの一部を、自宅の農園で無料提供することにしました」
嫁さん:「えっ、何? なんの話?」
江端 :「さて、このバナナを自宅に持ち帰ったお母さんが、体の弱い子供にそれを食べさせました」
嫁さん:「……」
江端 :「この子供は不幸にして、良く熟れたバナナを受けつけず、激しい嘔吐に見舞われ、そのまま入院してしまうことになりました」
嫁さん:「それで?」
江端 :「この子供の入院騒ぎの責めを、バナナ園の主人である私は受けなければならないでしょうか?」

 嫁さんは、しばらく考えた後で、答えました。

嫁さん:「……無料だったんでしょ?」
江端 :「そう」
嫁さん:「他の人は入院することなかったんでしょ?」
江端 :「そう」
嫁さん:「バナナを持っていった人の自己責任に決まっているじゃない」
江端 :「やっぱりそう思うよねぇ……」
嫁さん:「一体、なんなの?」
江端 :「ソフトウェアの世界では、

(A)バナナを食するに際する許諾条項が書かれた用紙も一緒に手渡し、
(B)その内容は「バナナを剥いた瞬間から、その責任はバナナを剥いて食った人にある」ことが明示的に表示されている必要があり、
(C)もしそのような明示的な表示をしていないと、「バナナ園の主人が悪い」と見なされることがあるんだ」(註0)
(江端作「バナナ園の主人の悲劇」)

 こんにちは、江端智一です。今回は、前回「初音ミクと著作権シリーズ(全6回)」で度々登場させてきました「ライセンス」に関してお話ししたいと思います。まず、今回第1回目では「ライセンス」の基本的な考え方と、その効力と限界について説明します。

 第2回目では、最近色々なところで聞くようになった「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」について説明させていただき、第3回目以降は、漫画家の赤松健先生がご提唱されている「黙認ライセンス」という考え方についてご紹介いたします。

●ライセンスとは「穴」のこと

 さて、そもその「ライセンス」とはなんでしょうか。

「ライセンス」とは「穴」のことです。ある条件下で、例外を認めるものです。例えば、自動車免許もライセンスの一つです。原則として、日本国内における道路においては、誰一人として自動車を運転することが許されていません。

 しかし、自動車の運転技術を取得し、交通法規を完全に記憶し、自動車の危険性を熟知し、人命尊重の観念を自らのものにした、ごく一部の人物だけに、「例外的に自動車の運転を許諾する」というものです。

 著作権についても同じです。初音ミクの絵は、日本国著作権法に基づき、日本国民の誰一人として利用できませんし、その絵をベースとして別の絵をつくることも許されませんが、ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)に従う限りは、初音ミクを使うことが可能となります。

 また、私が作成したパソコン用のソフトウェアプログラムも、私が提示したライセンスに従う限りにおいては使ってもよいということになります。

 なぜ、そのような法律上の「穴」、つまり「ライセンス」が認められているかというと、「私的自治の原則」というルールがあるからです。

「私たちが決めたことに、法律ごときがガタガタ言うんじゃねーよ」というもので、この原則は法律を超えることができる場合があるのです。

●なぜライセンスが必要となるのか

 以下のような理由があるからです。