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著作権法やTPPと闘うための最終兵器「ライセンス」は、なぜこんなに“面倒くさい”?

【この記事のキーワード】,

「面倒くさい」からです。多くの人にとって、「そっかー、江端の文章を使って、勝手なことをやると、株式会社サイゾーが黙っていないかもしれないんだな」というアピールという意味では、有効に機能しているともいえるからです。

 また、株式会社サイゾーにしても、そのような記載をするのは「面倒くさい」でしょうし、さらに、読者は、そのような文章を読むのも「面倒くさい」でしょう。

ライセンス」の周辺は「面倒くさい」の嵐が吹き荒れていて、そして、この「面倒くさいが」が、さらにライセンスを、私たちから遠ざけてしまっているのです。

(3)善意の著作権者が、自分で自分を守らなければならない

 私のつくったホームセキュリティ用のプログラムのソースコード(註3)は、誰でも利用できます。しかし、これを原子力発電所の制御システムに利用するような間抜けなエンジニアが、「絶対に、世界中に一人もいない」とは断言できません。

 ですから、私は心底「面倒くさい」と思ってはいるのですが、

「著作者は直接的、非直接的、偶発的、特殊な、典型的、あるいは必然のいかなる場合においても、いかなる損害に一切責任は負わない(註4)」

などという「言い訳」のライセンスを、至るところに山ほど書いているわけです。しかも、念を入れて英語でも書いてあります。できるなら、イランと北朝鮮の公用言語でも書いておきたいくらいです。

●著作権者がライセンスをつくってくれないとどうなるか

 原則として、我が国の同人誌や初音ミクに関する二次創作活動は、制限されることになります。理屈はとっても簡単です。

Step.1:著作権者が、ライセンス(許諾)を出していない
Step.2:すると、著作権法がダイレクトに適用されることになる
Step.3:すると、著作権法に基づき著作権侵害が認定される

となるからです。

 それでも、まだ著作権が「親告罪」となっている今であれば、この著作権侵害の話は、「一次著作者であるマンガ家」と「二次著作者である同人誌作家」の当事者間の問題で済みます。

 しかし、もし将来、TPPが入ってきて「非親告罪」で運用されることになったら、こんな未来がやってきます。

 夜遅くまで大きな音で音楽を聞きながら原作者に許諾をもらっていない同人誌のマンガを描いているあなたに、隣の部屋のあなたと仲の悪いオバサンが、安眠を妨害されて心底腹を立てていたとします。そのオバサンは、あなたの捨てたゴミ袋の中から、そのマンガの原稿を見つけて、まったく筋違いなアプローチ「著作権侵害」で、あなたを警察に通報します。そうなると、一応市民からの通報に対して、警察は(面倒でも)動かなければならなくなります。

 一方、原作者であるマンガ家は、その二次創作のことをたまたま知っていて「ま、いいか」と黙認していたとしても、そのマンガ家の意思などまったく関係なく、あなたは、検察によって起訴されてしまうことがあるのです。

●今、必要とされているライセンスとはどういうものか

 初音ミクのPCLライセンス、オープンソースで使われているGPLライセンスでのように、ライセンスがうまく機能すれば、世の中の多くの人を幸せにすることができます。

 ですが、それらのライセンスは、プロの法律家が十分な時間をかけて、議論を重ねて完成させ、今なお改良を続けているものです。このようなライセンスを個人でつくるのは無理でしょう。

 もちろん、個人でつくらなくても、他人のライセンスを真似すればよい場合もあるでしょうが、もしあなたが「使ってもらってもいいけど、それで金儲けされたら腹が立つなぁ」とか、「使ってもらってもいいけど、キャラクターの表情に手を入れてほしくないなぁ」とか、色々自分好みの注文を付けたい時には、他人のライセンスでは対応できません。

 一方、著作権法改正による解決については、すでに立法府(国会)が「もうダメ」と手を上げているらしいです。無理もありません。このインターネット上を走り回るデジタルコンテンツを、毎年の法改正で追いかけるなど無謀と思えます。

 とはいえ、初音ミクブームに見られるように、インターネットの時代において、従来の著作権法の考え方をそのまま適用し続けるのにも限界があるといえます。

 今、時代が必要としているものは、「どんな著作権者であっても誤解なく簡単に使えて、どんな二次創作者にも理解ができて、だれもが安心して使えるライセンス」なのです。

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 今回は、インターネットの世界で、これから色々生まれてくる創作を保護するためだけでなく、作者自身がトラブルに巻き込まれないようにするためにも「ライセンス」というものが、恐ろしく重要なものであることをご理解していただけたと思います。

BusinessJournal編集部

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