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【日興インサイダー裁判】破綻した検察側ストーリーと、動機や物的証拠なき不可解な判決

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佐藤 その通りです。それなのに判決ではトラブルがあったと認定しています。ただ、検察が「フォーサイド株の損失と融資の焦げ付きの穴埋め」が情報提供の動機だったと主張しているのに対し、裁判官の判断は微妙に違います。フォーサイド株のことは一切ふれず、単に金氏から借金の追及を受けていたとだけ認定し、「その追及から逃れるためだけの、その場しのぎの言い訳のために情報提供をした」としています。これじゃ、まるで子供の言い逃れです。ここの部分は、裁判官が共犯を否認せざるを得なかった点との整合性をとるため、無理矢理こういう判断を考えたのだと私は思っています。

●裁判官も正犯性を否定

–具体的に説明してください。

佐藤 金氏が吉岡氏から聞いた情報をもとに売り買いしたと検察が主張している銘柄は37銘柄もあるのに、起訴対象になったのはたった3銘柄だけです。この3銘柄は吉岡氏と金氏が通話をした日時と買付時間が比較的近いものを選んでいるんです。それ以外の34銘柄は通話日時の一致すらない。情報をもらった金氏ですら、もらった情報で株を売り買いしたのかどうかとか、それで利益を得たのか、損をしたのかすら吉岡氏に報告していない。

 重要なのは、伝達したとされる情報の中には、その情報をもとに株を買ったら明らかに損をする情報も入っていて、実際損をした銘柄があるのに、そのことで吉岡氏にクレームをつけていないということなんです。フォーサイド株では損をしたら吉岡氏に文句をつけたと言っている金氏が、他の銘柄では一切文句をつけていないと証言しているわけです。検察が主張している、伝達した情報の精度は低レベルなものでしたから、裁判官も吉岡氏からの情報は金氏の行動に重大な影響を与えていないということを認め、正犯性を否定しているんです。

–なるほど。検察は穴埋め目的があった、つまり対価性があったと主張しているけれど、裁判官はそうは見ていないと。

佐藤 そうです。金氏の投資行動について一切報告も受けていないという吉岡氏の証言と、吉岡氏に一切報告しなかったという金氏の証言は一致しています。そこから先がおかしい。裁判官はその場しのぎで追及を逃れることができればよかったのだから、提供する情報は利益が出る情報じゃなくてもよかったのだと判断したわけです。

 しかし考えてみてください。三井住友銀行のエリート行員だった吉岡氏は、片道切符で日興に出向に出されたわけじゃありません。巨額の資金を投じて買収した日興の買収効果を最大限に引き出すために、2年間で銀行に戻ることを前提に出向していた、将来ある身だったんです。検察が言うようなトラブルがあったわけでもない。なんで将来を捨てて危ない橋を渡る必要があったのでしょう。あるわけないですよ。

–ただ、吉岡氏が銀行員時代に金氏に行内の情報を提供していたという証拠は出ていますよね。

佐藤 銀行員時代にフォーサイドの業況を聞かれ、担当している部署に問い合わせて情報を流したのは事実です。当時フォーサイドは海外投資の失敗が明らかになっていて、それでは本業のほうはどうなのかをしつこく聞かれ、行内の担当部署に問い合わせて「本業は問題がない」ということを確認して伝えたんです。その際、どうしても何か紙にしてくれと食い下がられたので、行内のメールをプリントアウトしてFAXしてしまったと。これが銀行を懲戒解雇になった理由になりました。今回の件で逮捕されたからじゃありません。ただし、本業がどうなのかしつこく聞いてきたのも、FAXを流した相手も金氏ではなく、もともと金氏を吉岡氏に引き合わせた人物で、この人は吉岡氏と旧知の仲だったんですよ。この人物が金氏にFAXを転送したんです。それでも内部情報を漏らしたことに違いはないので、この懲戒解雇については吉岡氏も納得をしているんです。

–検察は、貸金事前審査メモ、つまり銀行が融資をするかどうかを検討した書類が金氏に流れているとして、流したのは吉岡氏だと主張していましたよね。

佐藤 そちらについては、吉岡氏は自分が流したものではないと全面的に否認しています。いずれにしても、銀行員時代に融資先の情報を漏らすようなヤツだからTOB情報も漏らしたに違いない、なんていうのは推測であって立証ではありません。「昔万引きでつかまったことがあるから銀行強盗をやってもおかしくない、だからコイツは銀行強盗なんだ」などという主張がおかしいということは誰にでもわかることです。

●矛盾はらむ判決文

–私も判決文を一通り読んでみましたが、素人の私が読んで「あれ?」と思った点が1点あります。情報伝達に関する決定的な物的証拠がなく、金氏と吉岡氏の主張が真っ向から対立する中で、金氏が嘘をついて吉岡氏を陥れる理由がない、と言っているくだりです。吉岡氏はこれまでも、これからも不動産の情報を提供してくれる相手なのだから、そういう利用価値がある人物を金氏が陥れるわけがない、と言ってるんですね。でも吉岡氏はとっくの昔に銀行をクビになっているわけですから、もうその時点で金氏が欲しい不動産の情報なんて得られなくなっているでしょう。金氏にとって吉岡氏は、とっくの昔に利用価値がなくなった相手ですよね。

佐藤 そこです。そもそも共犯者は「引っ張り込み」の誘惑に負ける危険があるから、共犯者の取り調べは慎重にしなくてはいけない、というのは最高裁判例でもいわれている刑事事件審理の鉄則なんです。例えば自分が主犯なのに、検察が「あなたはだれそれの言いなりになっただけで、だれそれが主犯なんでしょう?」と言ってきたら、そのストーリーに乗りたくなるのが人間っていうものでしょう。罪が軽くなるんですから。そうじゃなくても、自分一人が罪になるのはイヤだ、誰かを道連れにしたいと思うのは人として当たり前の心理です。厚生労働省の村木厚子さんが無罪になった最大のポイントは、主犯の男性が自分の罪が重くなることを厭わず、村木さんの共犯を否定してくれたからです。証拠の偽造は偶然つかめたもので、主犯による共犯の否定がなければ、村木さんは助からなかった可能性が高いのです。

–金氏があっさり罪を認めて1億円もの追徴金の支払いに応じたのも、「引っ張り込み」の心理が働いたと。

佐藤 それもあるでしょうし、金氏の逮捕と同時に金氏のご子息が逮捕されていたので、ご子息の起訴を見送ってもらうために検察のストーリーに乗る必要があったのではないかと我々は見ています。いずれにしても控訴審では無罪を勝ち取るべく全力を尽くします。

–ありがとうございました。
(構成=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

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