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国が“和装で出勤する”きものの日の導入検討?現代社会での障害を無視した愚策

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「Thinkstock」より
 経済産業省が、和装で出勤する「きものの日」の導入を検討していることをご存じだろうか。

 2020年の東京オリンピック開催、円安進行によるインバウンド(訪日外国人)の増加などを背景に、日本の特色をアピールするためだ。着物が和文化の象徴的存在であり、日本や地域の魅力を最大限に向上できる可能性を秘めていることから、経産省では早ければ来年度から実施する方針だ。

 近年、日本人の着物離れは深刻だ。第二次世界大戦前まで、着物は普段着として着用され、素材も綿、麻、人絹など多様なものが大量に供給されていた。しかし、戦後になると洋装化が急激に進み、普段着としての着物需要は減少する。

 その後、着物は供給側が高付加価値商品に戦略をシフトしたことにより、高級品という限定的な市場が形成されることになる。しかし、着物の出荷金額は1980年前後の1.8兆円規模をピークに、13年には3000億円と6分の1に減少している。

 そこで、経産省内に着物関連業界などによる和装振興研究会が設置され、6月には政府による「きものの日」の制定が提言された。候補日には、年末年始のほかに11月15日などが挙がっているという。もともと、11月15日は全日本きもの振興会が「きものの日」に制定しており、着物振興のための取り組みが行われている。政府制定の「きものの日」も同日にすることで、着物振興に対する認知度を高めるとともに「箔をつけよう」という狙いなのだ。

 しかし、和装振興研究会の提言は、およそ着物の専門家が取りまとめたとは思えないほど、程度が低いといわざるを得ない。提言では、潜在市場開拓のために新たなビジネスモデル構築を推進するとしている。

 その焦点となっているのが、低価格の着物を作ることだ。同会は、着物が普及しない要因を高価格な上にクリーニング代等も高い点だとみており、価格が安く、クリーニングも行いやすい素材の普及を提言している。さらに、着物のブランド化により、差別化の提言も行っている。

 そして、極めつきが「きものの日」の制定だ。同会では、着物で執務を行える日を設定するとともに、着物に関する和文化を学ぶセミナーや体験イベントの開催を検討課題としている。また、着物を活用した地域振興や着物版ベストドレッサー賞の創設、江戸ファッションショーの開催、着物博物館の開設なども提案されている。

着物の普及には障害が多い


 こうした施策の多くは、すでにほかの地域振興策などで実施されており、新鮮味に欠ける。また、「価格が高いから、低価格の着物を作ることで普及する」というのは、実に安直な考え方であり、専門家が話し合った結果としてはあまりにも陳腐だ。