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舘内端「クルマの危機と未来」

三菱アウトランダーはガソリン代ゼロ&燃費リッター100キロ?ガソリン車は消えるのか

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表
三菱アウトランダーはガソリン代ゼロ&燃費リッター100キロ?ガソリン車は消えるのかの画像1三菱アウトランダーPHEV(「三菱自動車 公式HP」より)

アウトランダーPHEVはリッター100キロ

 三菱自動車工業の相川哲郎社長は普段、同社のプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、三菱アウトランダーPHEVを使っている。その燃費はなんとリッター100キロメートル以上だという。リッター40キロメートルというトヨタ自動車の新型プリウスも到達していない驚異の燃費である。

 PHEVは家庭のコンセントなど外部の電源から充電できる。三菱アウトランダーも同様で、丁寧に乗れば約50キロメートルは充電した電気の力だけで走れる。この範囲であれば、燃費は無限大である。つまりガソリンは一滴も使わない。毎日の走行距離が50キロメートル以下で、走行後は外部電源で充電すればガソリン代はゼロだ。相川社長も遠出をするときはガソリンを使うものの、通常は電気だけで走るという。その結果、リッター100キロメートルもの燃費となったというわけだ。

 メルセデス・ベンツの最高グレードSクラスにもPHEV、S550プラグインハイブリッド ロングがあるが、2015年3月に筆者は米サンフランシスコ郊外でコンセプトカーであるF015に試乗した時、「なるほど」という経験をした。

 自動運転車であるF015の試乗会は、サンフランシスコ郊外の元海軍飛行場跡地で行われた。宿泊した市内のホテルから会場まで黒塗りのベンツで送られたのだが、妙に静かで乗り心地が良い。ふと気づくとS550プラグインハイブリッドだった。そのまま会場までの20キロメートル余りの距離を、一度もエンジンがかかることなく走った。

 メルセデス・ベンツ広報の粋な計らいだったのだが、「なるほどこれがPHEVの本来の使い方なのか」と納得したのだった。

 一方、ロング・ドライブであると事情が変わる。電気だけで走れる距離以上に走ると、単なるハイブリッド車(HV)に変身する。しかも搭載している電池の量が多く、通常のHVよりも車重があり、その分燃費は悪い。走行途中で充電しようとしても、アウトランダーPHEV以外のPHEVは急速充電ができないので、200ボルトのコンセントで充電する。しかし、例えばS550プラグインハイブリッドでは3~4時間ほどかかるので、ロング・ドライブ向きではない。

 つまり、PHEVは上手に使わないと燃費がリッター100キロメートルというわけにはいかない。使用者の工夫が求められる。

自動車は使い方次第

 自動車一台の一日当りの平均走行距離は各国それぞれだが、一人当たりの一日の自動車使用時間は各国でそれほど違わない。というのも、一日に3時間も使ったのでは、運転を職業としない人以外は仕事や生活をする時間も短くなってしまい、それが毎日のこととなると支障をきたすからだ。

 一日の走行距離は、運転時間×平均時速で求められる。東京都内で1時間30分使うとすると、平均時速を20~25キロメートルとすれば、走行距離は30~37.5キロメートルである。郊外で平均時速が30キロメートルに上がれば、45キロメートルである。

 一方、ドイツのアウトバーン(高速道路)を使うと平均時速はおそらく80キロメートル以上となるが、下道もあるので平均して時速60キロメートルとし、一日1時間走ると走行距離は60キロメートルとなる。走行距離は、私たちの生活の仕方(ライフ・スタイル)と交通の混雑度で決まると考えてよいのではないだろうか。

EV、PHEVを支える充電インフラ

 米カリフォルニア州のZEV(排ガスがゼロの車両)規制では、電池のみで走るEVのほかにPHEVもZEVとして認められているが、搭載した電池のみで走れる距離を50キロメートル以上としている。これは、同州における自家用乗用車の平均的な使われ方を元にした規制である。一日の平均的な走行距離を50キロメートル以下として、その範囲内で走行し、自宅に戻ったら充電して翌日に備えるというわけだ。

 もちろん、200ボルトの電源があれば、家でなくともPHEVは充電できる。それが職場にあれば通勤距離が50キロメートルであってもゼロエミッションで通勤可能になる。

 たとえば三菱自動車は、EVやPHEVで通勤する従業員や来客のために工場や社員寮などに合計1200基の普通充電器を設置している。PHEVの使い方を工夫すれば、ゼロエミッション通勤が可能になる。

 普通充電器の電源は200ボルト、15アンペアである。一方、車載の充電器の出力は3キロワットと釣りあっている。これであれば、たとえば三菱自動車のi-MiEVは電気がゼロの状態から5時間でほぼ満充電できる。アウトランダーPHEVでは4時間である。いずれも電気が空の状態からの充電はあり得ないから、実際にはもっと短い時間で満充電になるだろう。

 エンジン車でも、気温が非常に低い地域などでは充電スタンドが必要である。エンジン車は極低温になると、潤滑油(オイル)が硬くなる。そうなると始動用のモーター(セルモーター)が回らなくなって、エンジンがかからない。そこで街中での駐車時には、設置してある充電スタンドのコンセントを車体につないで、電気ヒーターでオイルを温めておく。このような習慣があるので、こうした地域ではEVやPHEVの街中での充電にあまり違和感はないという。

 自動車からの二酸化炭素(CO2)排出量を削減するには、エンジンの改良だけでは不可能だということがみえてきた。しかし、CO2排出量の少ないEVやPHEVを使うには、エンジン車とは異なるインフラが必要であると同時に、使う側も新たな習慣を身に付ける必要がある。多少面倒だが、地球温暖化を防止するには我慢のしどころではないだろうか。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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