本連載前回記事で、アメリカ大統領選挙の混迷について、共和党のドナルド・トランプ氏の人気を中心に述べた。今回は、対する民主党の大異変について、見ていきたい。
民主党に起きている異変。それは、自らを「民主社会主義者」と称する上院議員のバーニー・サンダース氏の大躍進である。サンダース氏の健闘により、当初から大本命と見られていた前国務長官のヒラリー・クリントン氏が、意外な苦戦を強いられている。
ヒラリー氏が苦しむ理由を述べる前に、やや複雑な米大統領選の仕組みについて解説したい。本選は11月だが、まずは民主党と共和党がそれぞれ指名候補を決める予備選挙や党員集会が、2月から6月まで各州で開催される。
この予備選は、一般党員の代理人ともいえる「代議員」を選ぶものであり、この代議員が7月の党全国大会で投票することで、各党の候補が決まる。そのため、代議員数の過半数を取った候補が党の指名を勝ち取ることになる。代議員の数は州の人口や党員数によって違い、代議員の配分方式も、票数に応じて比例配分する州もあれば、勝者の総取りになる州もある。
民主党では、「一般代議員」に加えて「特別代議員」という存在がある。一般代議員は、予備選の結果に従って特定の候補に投票しなければならないが、特別代議員は自分の判断で投票することができる。そのため予備選で順調に勝っていたからといって、安心できるわけではない。
この特別代議員の多くはヒラリー氏を支持しており、そういった側面から見ても、ヒラリー氏の勝利はほぼ間違いないと見られている。しかし、一般代議員の動向を見る限り、サンダース氏の支持率が非常に高く、自由の国・アメリカにおいて社会主義者が台頭しているという現象は、今回の米大統領選の大きな特徴といえる。
ただし、このサンダース氏の躍進も、もともとリベラル色が強い民主党の内部選挙であるからこそ実現している、という面も否定できないだろう。
巨額の金融マネーで選挙を動かしてきたウォール街
2008年のリーマン・ショックに端を発する金融危機は、アメリカ社会の基本構造を大きく変えてしまった。多くの中間層が没落すると同時に、白人をはじめとして多くの貧困者が生まれることになったからだ。
そして今、アメリカで大きなムーブメントが起きている。それは、“金融叩き”が票になるということである。
米大統領選において最大のスポンサーといわれるのが、いわゆるウォール街を中心とした金融マネーだ。金融業界は、選挙において大きな影響力を持つと同時に、政界に対しても強い力を持っていた。
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