日銀のマイナス金利政策の導入から約3カ月。日銀は民間金融機関の貸出増を促すが、企業の資金需要は乏しい。メガバンクのトップが中央銀行の政策を批判する異例の事態になり、金融機関「一人負け」の様相を呈している。
「懸念を増大させている」
三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は4月14日の講演で、マイナス金利を批判した。日本を代表する金融機関のトップが金融政策を批判するのは極めて異例だ。「中央銀行は金融システムを守る存在。銀行界は金融緩和に不満はあっても、公式な場での批判は通常は避ける」(市場関係者)のが通例。いい換えれば、それだけマイナス金利が銀行業界に与える影響は大きい。
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、日銀によるマイナス金利の導入により、銀行の本業のもうけを示す業務純益が16年度は地方銀行で15%、大手銀行で8%の減益になると試算している。
4月1日に公表された日銀短観でも、銀行を取り巻く異常な環境が明らかになっている。銀行の業況判断DIが大幅に悪化。これはマイナス金利の打撃が如実に反映されたといえる。
「銀行業」と「信用金庫・系統金融機関等」のDIは、前者は前回比8ポイント悪化の16、後者は同9ポイント悪化の13。
「通常、金融関係のDIの変化は5ポイント未満。これが2桁近い下落になったのは、マイナス金利による打撃」(日銀関係者)
マイナス金利の好影響もあるにはある。「借入金利水準判断」は歴史的な低水準。金利の上昇から低下を引いた指数は、大企業でマイナス31。前回から26もマイナスになり95年11月調査以来の水準になった。一方、金利低下が進みつつも、「資金繰り判断」は大企業、中堅企業、中小企業で前回と変わらず。企業目線での「(銀行の)貸出態度判断」も小幅な改善にとどまっている。
審査基準は緩まず
浮かびあがるのは、金余り状態にありながらも、審査基準がほとんど緩んでいないという現実だ。金融庁はマイナス金利導入後、地方銀行協会に経営難の中小企業にも成長融資を要請した。財務力の弱い「要注意先」と呼ばれる取引先への資金供給の拡大に発破をかけたが、地銀関係者からは怨み節が聞こえてくる。
「貸し出しが過度になり不良債権が膨らむことには金融庁が目を光らせている。『目利きができれば焦げ付かないから、貸し出せる』といわれても困る」(地銀幹部)。
ここ数年、民間金融機関は好業績続くが、わずか10年ほど前まで不良債権に苦しんだ。当時、現場で這いずり回った層が管理職や経営層になっており、過去の呪縛から融資判断は簡単には緩まない。健全企業には超低金利でも貸したいが、そもそも需要がない。だからといって、基準を緩和してでも、財務状況が悪い企業にリスクをとって融資する気はさらさらないというわけだ。
政府が掲げる地方創生では地域金融機関が経済の中核として期待されていた。だが、「地域経済どころか自分たちの未来がまったく見えない。今のところ、何もしないのが吉」と守備固めを宣言する銀行関係者も少なくない。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)