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江川紹子の「事件ウオッチ」第54回

取り調べ可視化義務付け、通信傍受の対象拡大……【刑事訴訟法改正案可決】の意義と懸念

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 対象は、電話での会話だけでなく、メールやSNS、インターネットを使った通話など、あらゆる種類の通信に及ぶ。もっとも、今でも強制捜査においてはパソコンやスマートフォンをいち早く押収し、メールやSNSでのやりとりを把握することが常道になっている。押収されたあらゆる通信記録が弁護側にも開示されれば、捜査・訴追側による恣意的な利用は防げる。曖昧な記憶を捜査側の筋書きに沿ったかたちに整えて作成された調書などで事実認定されるより、こうした客観的な証拠に基づくほうがよいという見方もある。通信傍受においても、傍受を記録した媒体は封印して裁判官に提出しなければならず、改変を加えられない仕組みにはなっていて、立件されれば弁護人にも開示されることになる。

 小川議員が最後まで懸念を示したのは、「短時間“試し聴き”をしても犯罪に関連した会話がなく、本格的な傍受はしなかった」というパターン。これだと、事件が立件されることもなく、本人に通知もされないので、傍受されたこともわからない。

「捜査側がそれを悪用し、不正な傍受をしてもチェックできない」との指摘に対しては、「不断の見直し、検討を重ねて、いい制度にしていく」(岩城法相)、「適正実施に努める。適正な措置を講じていく」(三浦正充警察庁刑事局長)などと、一般論しか返ってこなかった。3年後の見直しの際には、実施状況と合わせて、本当に「適正な措置」が取られているのかなどを、確認する必要があるだろう。

 このように、いくつもの課題を抱えながら、可視化義務づけや司法取引などの新しい制度が始まる。これらが、捜査機関や裁判所によってどのように運用されていくかを、しっかり監視し続けることが必要だ。実際の事件では、弁護人となる弁護士の役割が大きいが、裁判を取材するジャーナリズム、さらには裁判傍聴をする一般国民も、適切な運用がなされているか、制度を是正すべき点はないかを常に気にかけておきたい。

 懸念材料はあっても、対象事件が限定されていても、可視化の義務づけが実現した意義は極めて大きい。日本の刑事司法が進むべき道は示されたのである。5月19日の参院法務委員会で、岩城法相は「取り調べの可視化が後退することはない」と明言した。あとは、いかにして歩を前に進めていくかだ。

 千里の道も一歩から。これからが正念場だ。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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