取り調べ可視化義務付け、通信傍受の対象拡大……【刑事訴訟法改正案可決】の意義と懸念
法務省が示した法案の「概要」には、「身柄拘束中の被疑者を下記の対象事件(=裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件)について取り調べる場合に、原則として、その取り調べの全過程の録音・録画を義務付ける」と書いてあり、林局長の答弁はこれに反するように思える。
ただ、この法解釈については折り合うことなく採決を迎えた。今後、同様の事件があった場合に、裁判所の判断を待つことになる。ただ、任意である以上、捜査機関は被疑者を留置場や拘置所から引きずり出して取り調べに応じさせることはできない。弁護人が依頼者に取り調べ受忍義務はないことをよく説明したり、捜査機関と交渉するなどして、録音・録画がなされない限り取り調べに応じないという対抗措置はある。弁護人の熱意と力量が試されるところだろう。弁護士のスキルアップのために、弁護士会などの役割も期待される。
参院法務委員会の最後の審議の際、かつて日本テレビのニュースキャスターだった真山勇一議員(民進党)は、「映像のインパクトは強い」と訴え、法廷での再生などについて慎重な扱いを求めると同時に、「(録音・録画は逮捕前の)任意同行のところから録らないと」と指摘した。足利事件のように、逮捕前の段階の無理な取り調べで「自白」させられた冤罪事件もある。また、村木さんが巻き込まれた事件では、参考人として事情聴取された人が検察の筋書きに沿う供述調書を作成されたという問題もあり、本来は参考人の事情聴取も少なくとも録音くらいはしておくべきだろう。こうした問題は、これは今後の見直しの時点で、ぜひしっかり論議しなければならない。
弁護人の同意を条件に、被疑者・被告人が他人の犯罪を明らかにする供述をすることで、自らの罪を減免してもらう「合意」をできることにする日本型司法取引は、罪を免れようとして無実の人を陥れる危険性など、新たな冤罪を生みかねないという懸念が示されてきた。その懸念は、今なお消えない。
ただ、これまでも取り調べの中で「(罪を)認めれば早く保釈される」「認めなければ◯◯(家族や取引先、支援者など)を取り調べるぞ」などといった働きかけが捜査官からなされ、それに応じて供述したと訴えるケースは無数にあった。このような“取引”が野放し状態だったのに比べれば、一定のルールができたことを評価する声もある。
また、この制度によらない“裏取引”について糺した小川敏夫議員(民進党)の質問に対し、岩城光英法相は、そうした取り調べは「違法」と明言した。これまで野放し状態だった手法が、やってはならないことになったのだ。まったく報じられていないが、この答弁の意議は、実はとても大きい。
問題は、そのような「違法」な取引がなされた場合、それをどのように証明するかという点にある。被疑者ノートの記載や弁護人の頻繁な接見などでは限界もある。録音・録画によって、そのような「違法」な取り調べを予防し、もしあった場合には記録しておくことが必要だ。そのためにも、やはり可視化義務づけの対象拡大を求めていくことは重要だろう。
懸念が残る、不正な通信傍受
今回問題となった通信傍受は、公安警察などの情報収集のための盗聴ではない。犯罪捜査のために、電話番号を特定したうえで裁判所の令状が必要だ。ただ、捜査に関するほかの令状発布に関しても、裁判所がどれだけのチェック機能を果たせているのかという疑問は常につきまとう。