英国、EU離脱で国家解体へ…経済的利益なし、「偉大なる大英帝国」復活という妄想
今回の国民投票についての基礎的理解
イギリスの国民投票で欧州連合(EU)から離脱することが支持されたが、今回の国民投票に法的拘束力はないので、あくまで実際に離脱するかどうかは残留派が多数を占める国会で決定される。
また、2020年の総選挙まで政権は変わらない可能性が高いので、基本的に現保守党政権内の離脱支持派からの首相選定になる。しかし、現在議員は残留支持派が多い。イギリスの総選挙は11年に成立した任期固定制議会法によって5年ごとに行われることになり、20年までは下院の総選挙は行われない。確かに任期固定制議会法では議員の3分の2が同意すれば解散できるが、残留派だけで3分の2を取るのは現状では難しい。
イギリスのEU離脱が経済的には合理的判断といいがたいことは、IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)をはじめとして、多くの機関や論者が述べている。実際に離脱派勝利の報を受けて、英国ポンドは対ドルで急落して1985年以来の安値につけた。また、世界的な株安も進行し、グローバル化した金融市場は今回のイギリスのEU離脱を歓迎していない。
主権の回復という「歴史の針の巻き戻し」は現実的か
離脱推進派の中心人物であるジョンソン前ロンドン市長は、「経済での目先の不利益は主権回復に必要なコストで、長期的には離脱が国益にかなうはずだ」と述べており、保守党のEU離脱派は、EU加盟によって失った国家支出や政策決定における自己決定権をEU離脱により取り戻すという「主権回復の戦い」であると主張している。ジョンソン氏がいう国益が経済的な意味であるとすると、EU離脱に伴う悪影響を克服して長期的に経済成長するといえる論拠は乏しい。
EU離脱派は、過去の栄光である「偉大なる大英帝国」復活への第一歩と言って、「歴史の針の巻き戻し」を行おうとしているように思える。そもそも、主に高齢のイギリス人の歴史的認識では、イギリスと欧州大陸は別であり、イギリスは欧州大陸の一部ではないので、離脱支持派にとってEU離脱は英国本来の欧州大陸との関係に戻るだけであろう。そうであれば、19世紀末にジョセフ・チェンバレンが自国民を鼓舞する演説で用いて流行語となった「光栄ある孤立(Splendid Isolation)」というこの時代のイギリス外交を象徴するフレーズが、今後、再び多用されるようになるのではないか。