昨年12月3日にWHO(世界保健機関)は、「食品由来疾病の世界的負荷推定」を発表した。食品由来疾病とは、微生物や寄生虫、化学的物質による疾病で、31種類の食品由来病因物質を対象としている。その内訳は以下のとおり。
・下痢性疾病の病因物質:11種類
ノロウイルス、カンピロバクター、腸管病原性大腸菌、毒素原性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌、非チフス性サルモネラ属菌、赤痢菌、コレラ菌、クリプトスポリジウム、赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫
・侵襲性感染症の病因物質:7種
A型肝炎ウイルス、ブルセラ菌、リステリア菌、ウシ型結核菌、パラチフスA菌、チフス菌、トキソプラズマ
・寄生蠕虫:10種
アニサキスほか
・化学物質:3種
アフラトキシン、ダイオキシン、キャッサバシアン
なぜ、WHOはこのような推計を発表したのであろうか。国立感染症研究所国際協力室長の熊谷優子氏は、その背景について次のように言及している。
「食品による健康被害、特に寄生虫や化学汚染物質に起因する被害規模は完全に把握されておらず、よってどれだけの負荷を引き起こしているかは依然不明なままである。開発途上国に於いてのみならず、先進諸国においても、食品由来疾病に関する疫学データは限られており、最も目につきやすい食品由来疾病の集団発生ですら認識されず、管理当局に報告もされることもなく、その原因が調査されることもない場合もある」(「食品衛生研究」<日本食品衛生協会/7月号>より)
要するに世界的に食中毒などの実態が掌握されておらず、先進国でも食中毒の集団発生すら報告されていない状況にあることにWHOが危機感を持ち、食品由来疾病の世界的負荷推定を発表することで警鐘を鳴らすとともに、各国の食品安全行政のレベルアップを求めているのである。
患者数は6億人
奇しくも7月12日は、堺市でO157学校給食食中毒事件が発生してから20年であったが、それ以降もO-157食中毒による被害は後を絶たず、表沙汰にならない食中毒がどれだけあるかもわからないのが実態である。
では、WHOの推計は、どのようなものであったのであろうか。そこには驚くべき数字が出されていた。