「ポジティブ=正しい」「なんでも美談」「無駄=悪」は間違い…人生を不幸にする!
本連載の執筆者である武蔵大学社会学部助教の田中俊之氏と、お笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世の対談。前回は、名門中学校に合格するも引きこもりを経験する山田氏の半生や、田中氏の専門である男性学を通じて、男性の生き方や世の中の空気について語られた。
山田氏は、20歳まで引きこもった後、大検を取得して大学に進学、しかし2年足らずで失踪して、芸人としての道を歩み始める。今回も、田中氏と山田氏の対談をお伝えする。
芸人の「旬」が短くなってきている理由
田中俊之氏(以下、田中) 芸人としてブレイクしたのは、早いといえば早いですよね。
山田ルイ53世(以下、山田) 21歳くらいで上京して、お笑いだけで食べていけるようになったのは30歳ぐらいでした。今でいえば、永野さんやハリウッドザコシショウさんは40歳を超えていますからね。
注目されるようになった一番の要因は『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)でしょうね。その前の『エンタの神様』(日本テレビ系)の影響もあったり、突き詰めると2006年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)の敗者復活戦だったり。それから、少しずつ仕事が増えていきました。
田中 髭男爵さんは、かなりしっかりとした漫才をされますよね。
山田 これは本当に言いたいんですけど、意外とネタの中身はしっかりしているんですよ。たまに「ワイングラスを持っていなかったら、全然面白くない」なんていわれるのですが、「ワイングラスを持った時に面白くなるようにつくってんねん」って。オチまでの長さとかテンポ感とか、構造をすべて計算していますから。
田中 本格的にブレイクするまでの間は、どんな感じだったんですか?
山田 ずっと普通の格好でコントや漫才をやっていたんですが、オーディションにも受からないし、テレビに出る機会もない。みんなが同じような漫才をしているなかで、「何か、ぶっ飛んだことをしなアカンな」ということで、貴族スタイルが生まれました。ネタ帳にアイデアをメモっていたんですが、そのなかに「貴族の格好で」とか「乾杯でツッコむ」というのがあって、それを実行したわけです。
僕らの前にも“キャラ芸人”はいましたが、コンビでは珍しかった。僕らの後からは多少増えたため、今は安易な手法のように思われることもありますが、当時は、むしろ尖っていたほうなんです。
田中 ライブも精力的に行っていますよね。
山田 やはり、漫才が好きですし。こないだ、後輩から「なんで毎年、そんなにたくさんネタをつくるんですか?」と聞かれたんですが、結論としては「正気を保つため」ですね。正気を保つために、3~4カ月も睡眠を削ってネタを書いているということは、たぶん漫才を愛しているんだと思います。
田中 新しいネタを書くというのは、やっぱり大変な作業ですか?
山田 天才なら湯水のごとく出てくるのかもしれませんが、いかんせん凡人ですから。イベントなどの囲み取材では、「新ギャグはないですか? 新キャラは?」と毎回のように聞かれました。これは誰に対してもそうなのですが、今はそのサイクルが早くなってきているから、芸人の旬が短くなってきていると思います。
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『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』 男は不自由だ。子どもの頃から何かを成し遂げるべく競争するように育てられ、働くのが当たり前のように求められてきた。では、定年を迎えたら解放されるのか。否、「年収一千万の俺」「部長の俺」ではなくなったとき、「俺って何だったんだろう」と突然、喪失感と虚無感に襲われ、趣味の世界ですら、やおら競争を始めてしまうのだ。本書は、タレント・エッセイストとして活躍する小島慶子と、男性学の専門家・田中俊之が、さまざまなテーマで男の生きづらさについて議論する。男が変わることで、女も変わる。男女はコインの裏表(うらおもて)なのだ。