炭水化物(でんぷん、繊維素など)を含む食品を120度以上の高温で加熱すると、有害化学物質の「アクリルアミド」が生成します。フライドポテト、ポテトチップスが危ないと、以前から週刊誌などでセンセーショナルに取り上げられてきました。2015年に欧州食品安全機関(EFSA)は、「アクリルアミドはDNAを損傷し、がんを引き起こすとの結論に至った」と発表しました。
こうしたなか、日本の対応が注目されていましたが、16年2月、内閣府食品安全委員会の作業部会は、「日本人のアクリルアミドの1日当たりの平均摂取量はEU加盟国(0.4~1.9マイクログラム)より低いが、できるだけ摂取量を減らす必要がある」との評価(案)を下しました。アクリルアミドの日本人1日平均摂取量は、体重1キログラム当たり約0.2マイクログラムで、動物実験で発がん性が確認された量の約1000分の1です。しかし、安全値は1万分の1というリスク評価もあることから、「できるだけ摂取量を減らす」という評価になりました。
日本人のアクリルアミドの摂取源で多いのが、高温で調理したフライドポテト、炒めたモヤシ、タマネギ、キャベツなどで、それらが約56%を占めています。次いでコーヒー、紅茶、ウーロン茶などが17%、ポテトチップ、クッキーなど菓子類が16%、パンなど穀類が5.3%、カレールーなどその他が6.2%となっています。
食品中にアクリルアミドが多いのはフライドポテトとポテトスナックで、ポテトスナックで最大1キログラム中2.10ミリグラム、フライドポテトで最大1.10ミリグラム含まれています。米菓せんべいが最大で0.37ミリグラムですから、ポテトスナックにいかに多く含まれているかわかります。
野菜類の加熱調理などは、食中毒対策でも避けられない面があります。アクリルアミド対策の決め手は、フライドポテトやポテトチップスなどのスナック菓子を買い置きしておかないことです。買い置きしておくと、つい手が出てアクリルアミドを過剰摂取してしまいます。特に小学生、中学生がいる家庭では注意が必要です。有害化学物質はできるだけ体内に蓄積させないことが、子供の健康を守っていくのです。
そうした点からも、食品安全委員会がアクリルアミド摂取量の低減を打ち出したことは評価できますが、食品を加熱してできる有害化学物質はアクリルアミドだけではありません。
がんの危険がある化学調味料が野放し
多くの加工食品には、化学調味料(グルタミン酸ナトリウム)が添加されています。原材料名表示では「アミノ酸」「アミノ酸等」と表記されていますが、この化学調味料を250度以上で加熱すると、「6メチル・2メチルアミノ・ジピリド・イミダゾール(グルP1)」と「2アミノ・ジピリド・イミダゾール(グルP2)」という強い変異原性(遺伝毒性)のある有害化学物質が発生するのです。このことは、1978年に国立がんセンター杉村隆所長(当時)らの研究グループが突き止め、日本癌学会総会で報告しています。
それから5年後の83年、仙台市で開かれた第6回アジア太平洋癌会議で、グルP1をラットに食べさせた動物実験の結果が報告され、国内外に衝撃を与えました。グルP1を0.06%混ぜた餌を食べさせたところ、ラットの小腸や大腸に腫瘍ができたというのです。
しかし、それから三十数年たった今日になっても、化学調味料は使用中止になるどころか、あらゆる加工食品に添加されるようになっています。グルP1、グルP2が問題になった時、取材に応じた厚生省(現厚生労働省)の担当官が「通常、料理で250度の高熱は使わないから心配ない」と言い放ったのを昨日のように思い出します。
オーブンレンジを高温設定にすれば200~250度です。オーブンが普及し、家庭で冷凍パイ、ピザ、グラタンなどを焼くことも珍しくなくなりました。スーパーマーケットなどで販売されているパイ、ピザ、グラタンなどは、化学調味料で味付けされているものが大半です。食品安全委員会はアクリルアミドを問題にして、なぜ化学調味料を250度以上で加熱すると発生する有害化学物質のグルP1、グルP2を野放しにしているのか、不可解としか言いようがありません。
ちなみに、弘前大学医学部が行った動物実験によって、化学調味料をたくさん食べたラットほど緑内障になるということも報告されています。化学調味料は高温で加熱しなければ安全というわけではありませんので、くれぐれも注意をしてください。
(文=郡司和夫/食品ジャーナリスト)