所有者不明の土地が増加
所有者がわからない土地が全国で増えている。登記簿などの台帳でも所有者が判明しない、あるいは判明してもただちに連絡がつかないような土地である。国土交通省が2015年度に行った調査によれば、ほとんどの都道府県が過去5年以内に、「所有者の把握の難しい土地が存在したことがある」と回答した。
人口減少が進むなか、相続時に登記されない物件が増えていることによる。引継ぎ手が遠方に住み、資産価値が低いなどの理由でそのまま放置し、相続を重ねていった場合、所有者にたどり着くことが難しくなる。また近年は、相続放棄も増えている。
こうした場合、土地に残された建物を除却したり、次の利用に供したりするためには、不在者財産管理人制度や相続財産管理人制度などを活用する必要がある。しかし、こうした措置を取るには手間とコストがかかるため、容易には行えない。日本の場合、土地所有概念は「絶対的所有権」で、土地の利用、処分のいずれについても所有者個人の自由とされる。所有権の強さが、所有者が管理の意思を失った場合や所有者がわからなくなった場合でも、容易に手を出せない状況を生み、問題解決を困難にしている。
なぜ日本で所有権が強いのか
そもそも日本において土地の私的所有権が認められたのは、明治の地租改正時(1873年)である。明治政府は、私的所有権を認めた上、土地に対して課税することで財政基盤の確立を狙った。それ以前の農村における土地制度としては、所有は村落に属し、15歳以上の男子に配分され、一定年齢(50歳)になると村落に返還するなどの仕組みが各地で見られた。
地租改正で認められた土地所有権は、民法(1896年制定)で明文化された。民法に明記された土地所有権の概念は、絶対的所有権の考え方であったが、これには歴史的な経緯がある。
民法の制定に当たっては、ドイツ民法第一草案がモデルとされた。これはローマ法学者によってつくられたもので、結局はドイツにおいて日の目をみなかったものである。「ローマ法型」の土地所有権は絶対的、排他的であり、その絶対性は土地の自由な利用、処分に結びつく。これに対して、「ゲルマン法型」の土地所有権は、都市の秩序を守るために、所有権の絶対性が限定される「相対的所有権」の概念である。相対的所有権は、その性格から社会的所有権とも呼ばれる。