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南清貴「すぐにできる、正しい食、間違った食」

日本人の野菜不足、危機的状況で健康を脅かすレベルに…がんや糖尿病に直結

文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事
日本人の野菜不足、危機的状況で健康を脅かすレベルに…がんや糖尿病に直結の画像1「Thinkstock」より

 世界中の人たちに「素晴らしい」「羨ましい」と褒め称えられている日本食ですが、肝心の日本人の食事の実態はというと、お粗末なものになり果てている感が否めません。その象徴のひとつが、野菜の摂取量の減少です。

 農林水産省が発表している資料『野菜の消費をめぐる状況について』では、「1人当たりの野菜消費量は、減少傾向で推移している」と記されています。また、このように分析されています。

「家庭での生鮮野菜の購入量が減少する一方で、食の外部化が進展している。若い世代ほど簡便化志向の傾向がみられる。また、野菜不足を感じている単身者は、中食・外食や加工品を利用することで野菜不足を解消したいと考えている割合が高い」

日本人の野菜不足、危機的状況で健康を脅かすレベルに…がんや糖尿病に直結の画像2

 厚生労働省は、健康を維持するために必要な野菜の摂取目標量は、「成人1日当たり350g以上」としていますが、同省発表の2013年『国民健康・栄養調査』によると、日本人の1日当たりの野菜平均摂取量は283.1gで、目標の81%程度にとどまっています。

 年代別で見てみても、すべての年代で摂取目標量に達しておらず、特に20~40代の若い世代の摂取量は少なく、目標の66~70%程度となっています。この年代の人たちこそ、野菜を多く摂取すべきなのですが、どのようにして野菜を摂取したらいいかわからないという方も多いのかもしれません。

 比較のためにアメリカの状況を見てみると、“現代栄養学の源”と評されている「マクガバンレポート」が発表された1977年以降、米政府は野菜の摂取量を増やすことを奨励してきました。

 また、「毎日5サービング以上の野菜と果実を食べよう」と呼びかける「ファイブ・ア・デイ運動」も盛んです。1サービングは、両手に乗るくらいの量が目安です。これは1986年にカリフォルニア州からはじまった事業で、徐々に全国に広がり、今では全米で食生活の指針を見直し、「毎日食べる食品の摂取量の約半分を野菜と果実にしよう」という“マイプレート運動”となって定着しています。

 その流れを受けて、10年2月には大統領夫人のミシェル・オバマ氏が子どもの肥満撲滅運動「Let’s move!」を呼びかけ、政府と民間企業が協力して食生活改善の取り組みを行っています。

 それが奏功したのか、今では年間野菜摂取量は以前とは逆転して、日本人よりアメリカ人のほうが多いという結果となって表れています。

サプリなどでの補給はNG

 野菜の摂取量が少ないということは、とりもなおさずビタミンやミネラルなどの必須栄養素とともに、私たちの健康を守ってくれる植物栄養素の摂取量も少なくなるということです。また、最近ようやく重要視され始めた食物繊維の摂取量も少なくなり、それが健康のレベルの低下に結びついていることは、多くの方々の知るところです。

 食物繊維には2種類あり、ひとつは水溶性食物繊維、もうひとつが不溶性食物繊維です。いずれも私たちの消化酵素で消化されない食物中の成分です。根菜やイモ類などの野菜や果物、きのこ類や海草、甲殻類、そして未精製の穀類や豆類などに多く含まれています。

 食物繊維は、腸内に送り込まれてしまった発がん物質などの有害物質を吸着して排泄してくれるため、適正量を摂ることで腸内がきれいに保たれます。それによって善玉菌が増え、リンパ球が活性化し、結果的に免疫力が高まります。また、コレステロール値を下げる、糖尿病を予防する、高血圧を予防する、肥満を防ぐなど、さまざまな効果があると考えられています。

 しかし、このように健康効果を持つ食物繊維も、摂りすぎてしまうと良くありません。肝心な栄養が吸収されにくくなったり、腸の蠕動(ぜんどう)運動が活発になりすぎて下痢気味になったりすることもありますので、サプリメントや食物繊維を多く含んだ飲料などを飲む時は配慮が必要です。

 つまり、適量の新鮮な野菜と、未精製の穀物と豆類を日常的に食べるというのが、もっとも優れた食物繊維の摂取方法なのです。このような食事内容にしていくと、必然的に私たちの免疫力は向上していきます。逆に、食事で食物繊維を十分に摂取できないと、免疫力が低下することもあり得ます。このように、野菜の摂取不足は、私たちの健康に大きな悪影響を及ぼすことになります。

野菜の“質”が重要

 しかし、もっと大きな問題は、野菜不足を解消しようとして質の悪い野菜を食べてしまうことです。質が悪いというのは、農薬や化学肥料を多用して栽培した野菜を指します。農薬の害は、これまでもいろいろと指摘されてきていますが、化学肥料にも大きな問題があります。

 化学肥料は、基本的に「硝酸態窒素」と呼ばれるものが主体で、これを大量に使用された野菜を食べると、その硝酸態窒素が体内でニトロソアミンという発がん物質に変化してしまいます。ニトロソアミンは発がん物質であるだけでなく、すい臓のインスリンをつくり出す細胞にも多大なダメージを与えます。そのため、長期間にわたって硝酸態窒素を摂り続けていると、細胞内にブドウ糖を取り込むメカニズムや、血糖値のコントロールにも影響し、場合よっては糖尿病の要因にもなってしまうのです。

 昨今、数多くの農家の方々が、農薬や化学肥料の害について気づき始めています。ご自身やご家族が体調を悪くされたことなどをきっかけに、自分たちが育てている作物が、それを食べる人たちの健康を害しているかもしれないと疑問を持つに至っているのです。

 農水省の調べでは、48%の農家が「条件さえ整えば、オーガニック栽培に移行したい」と考えていることがわかりました。その条件の第一は何かというと、「消費者の理解」なのです。消費者が、自分たちの食べるものに対して関心を持ち、農家の苦労を知った上で、オーガニック野菜に適正な価格を支払うという条件がまず整わなくてはならないのです。

 オーガニック栽培による元気な野菜を、みんながたくさん食べられるようになるといいと思います。おいしい野菜を食べれば、多くの野菜を食べたいと思う人も増えるでしょうし、日本人全体の野菜摂取量も増えるでしょう。ひいては、それが日本人全体の健康増進につながっていくことは間違いありません。

 国は、本気で国民の健康を考えるのであれば、省庁の壁を取り払い、さらに民間企業とも力を合わせ、オーガニック栽培をもっと推進すべきです。そして、国民が「これなら食べてみたい」と思うような、おいしい野菜料理を開発してほしいものです。

 そういう具体的な、実現可能な施策を考えだして実行するのが、役人の仕事ではないのかと申し上げたい。そうしなければ国民を健康に導くことはできないと、重ねて具申したい。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)

南清貴

南清貴

フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会
代表理事。舞台演出の勉強の一環として整体を学んだことをきっかけに、体と食の関係の重要さに気づき、栄養学を徹底的に学ぶ。1995年、渋谷区代々木上原にオーガニックレストランの草分け「キヨズキッチン」を開業。2005年より「ナチュラルエイジング」というキーワードを打ち立て、全国のレストラン、カフェ、デリカテッセンなどの業態開発、企業内社員食堂や、クリニック、ホテル、スパなどのフードメニュー開発、講演活動などに力を注ぐ。最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した新しいタイプの創作料理を考案・提供し、業界やマスコミからも注目を浴びる。親しみある人柄に、著名人やモデル、医師、経営者などのファンも多い。

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