金融広報中央委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、老後の生活を心配している人の割合は8割以上になっています。年金で老後の生活を賄うのは難しいと思っている人が4割以上もいるのですから、無理もないでしょう。
老後の収入、生活費はいくらくらいかというと、厚生労働省のモデル世帯「夫婦2人」の年金額は平成29年度で月22万1227円、一方、夫婦2人の最低予想生活費は月27万円(金融広報中央委員会)といわれています。従って、単純に計算すると毎月5万円ほどの赤字になります。その上、病気、介護等の臨時出費を加えると、かなりの金額が必要になります。これでは平均的な年金額で、ほかに収入がない人は不安になります。
しかし、年金額や生活費は、かなり個人差があります。収入を増やすことや支出を減らすことは可能です。手取り収入の範囲内で暮らせれば、心配はかなり減ります。収入を増やすよりも支出を減らすほうが簡単なので、支出を減らすことから考えてみましょう。
まず、自分の手取り収入と支出を知ることから始めましょう。収入が年金だけの方は、年金定期便を見れば年金見込み額がわかります。すでに年金をもらっている方は、日本年金機構から送られてくる「お知らせ」を見ればわかりますし、実際に年金が振り込まれてくるので通帳などでも確認できます。そのほかの収入がある人は、その収入を足せば総収入額を割り出せます。そして支出は、現在の1カ月の支出を書き出してみれば知ることができます。
1カ月の手取り収入と支出を比べて、支出のほうが少なければ、ほぼ安心できるのではないでしょうか。支出のほうが多い方は、支出を減らす工夫をしなければなりません。そこで、無駄遣いがないかを確認してみましょう。
“3大無駄遣い”を見直す
人生の3大無駄遣いといわれているのは、住宅ローン、生命保険、マイカーの保有です。
住宅ローンは返済金額が大きいので、収入が年金だけの人が返済するのは困難です。年金生活に入る前に完済すべきです。もし完済できなければ、リバースモーゲージの利用を考えてみるのもいいかもしれません。
リバースモーゲージとは、自宅を担保にして老後資金を借りることです。担保不動産を自分の死後に売却して借金を一括返済するもので、子供のいない夫婦には良い方法でしょう。
次に生命保険ですが、65歳以上の老年期にある人にとっては、面倒をみなければならない子供は成人しているケースが多く、さらに死ぬリスクよりもむしろ長生きするリスクのほうが大きいといえるので、生命保険は必要ないでしょう。
マイカーの保有については、自動車の維持費はかなりかかるので、所有せずにカーシェアやレンタカーを利用したほうが支出を抑えられます。
また、私的な医療保険に入っている人は、公的な健康保険以外に民間の医療保険が本当に必要か、よく考えたほうがいいと思います。治療費程度の貯蓄があれば、民間の医療保険は不要です。公的保険には高額療養費制度があるため、65歳以上の人の医療費は現役並みの収入がある人でも1カ月9万円未満、一般的な収入の人は月6万円弱で済みます。ちなみに、60歳で終わる医療保険はほとんど加入する意味がありません。一般的に、医療費がかかるのは65歳以降だからです。
このようにして、毎月必ず出ていく出費(固定費)を削減すれば、支出はかなり減らせます。それでもまだ支出のほうが多い人は、日々の生活で節約をこころがけ、手取収入以内に支出を抑える練習をしたらよいのではないでしょうか。
(文=藤村紀美子/ファイナンシャルプランナー・高齢期のお金を考える会)