筆者が子どもの頃、毎年12月26日になると、隣のおばさんがあるケーキ店の大きなデコレーションケーキを持ってきてくれました。どうしてクリスマスが終わってからなのか不思議に思い、ある年、おばさんに聞くと、こう答えたのです。
「義兄がケーキ店の株主で、売れ残ったケーキをたくさん持ってくるのよ。半年前から、クリスマスのためにたくさんつくって保存しておくのだけれど、今年はお祭りのような東京オリンピックが終わって気が抜けてしまったのか、クリスマスケーキもあまり売れなかったそうよ」
クリスマスのシーズンになると、この「1日遅れのクリスマスケーキ」のことを思い出します。それから半世紀たちましたが、大手菓子会社が半年も前からクリスマス用ケーキを製造しているのは今も変わりません。半年間も品質を保つには、いくら冷蔵倉庫に保管しても保存料、安定剤などの食品添加物が不可欠です。子どもたちの大好きなケーキですが、これでは添加物の健康への悪影響が心配され、悪魔のプレゼントになりかねません。クリスマスケーキには、安心できる手づくりケーキか、あるいは添加物を極力使っていないケーキを町の良心的なケーキ屋さんで買って子どもたちと食べてください。
ケーキを選ぶ際の最大の注意点は、どこの菓子メーカーのものにするかということです。大手チェーン店やコンビニエンスストアのケーキは、できるだけ買わないほうが無難です。
市販のケーキのほとんどには、ガゼインナトリウム、カロテン色素、加工デンプン、乳化剤、リン酸塩、膨張剤が添加されています。特に、子どもに摂取してほしくない添加物は、加工デンプン、リン酸塩、膨張剤です。
加工デンプンには11品目ありますが、欧州食品科学委員会(SCF)は、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプンの2品目について、「製造工程で用いられる化学物質の『プロピレンオキシド』は、遺伝毒性、発がん物質であることが否定できない」との理由から、「乳幼児向け食品に用いるべきではない」としています。
加工デンプンは一括表示されているので、11品目中、どの品目を使っているかは消費者には判断できませんが、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプンの2品目を使っているケースがほとんどのようです。食品メーカーが加工デンプンの具体的な品目を表示しないのですから、「加工デンプン」と表示されている食品は避けたほうが賢明です。
リン酸塩と膨張剤
リン酸塩(別名:第一リン酸ナトリウム)はpH調整として使われますが、子どもの骨格の成長を阻害する添加物です。リン酸を水で薄め、炭酸ナトリウムを加えてから加熱濃縮して結晶物を得、加熱脱水したものです。リン酸塩のもっとも大きな有害作用とみられているのは、カルシウムの作用に悪影響を与えることです。過剰摂取すると、骨のカルシウム減少、軟組織への石灰沈着で骨代謝障害を起す心配があります。また、鉄分の吸収を妨げ、貧血などの原因にもなります。
膨張剤というのは、ベーキングパウダーのことですが、2010年10月26日付朝日新聞はこう伝えています。
「ホットケーキやパウンドケーキを週に1個食べるだけで、幼児ではアルミニウムの摂り過ぎになってしまう場合があることを東京都健康安全研究センターの調べで分かった。アルミを含む膨らし粉(ベーキングパウダー)が原因らしい。神経系などに影響を与える可能性があり、摂取量を減らす対策が必要としている」
パンやケーキなど、生地を膨らませるために入っている物質が膨張剤ですが、膨脹剤が問題となるのは、ミョウバン類(ミョウバン、アンモニウムミョウバン、焼ミョウバン、焼アンモニウムミョウバン)が多量に配合されているからです。ミョウバン類はアルミニウムの原料のボーキサイトに硫酸を加えた硫酸アンモニウムから製造される酸性物質です。膨張剤を使うと発酵時間は不要となり、ケーキ生地、パンなどの製造がきわめて簡単にできるため、効率第一の大手食品メーカーには不可欠の添加物になっています。
しかし、ミョウバン類はアルミニウムと同じです。アルミニウムは、国が使用基準を検討しているほど毒性が認められており、神経の発達に問題を起こしたり、腎臓障害が懸念されています。厚生労働省の調査によると、1〜6歳の子どものアルミニウム摂取量が国際基準よりも多いということがわかりました。できるだけ、ミョウバン配合の膨脹剤が含まれている商品は避けるようにしましょう。ケーキのスポンジが妙にしっとりとしたものは、このミョウバン配合の膨張剤が使われていますから、選ぶ際の参考にしてください。
また、自宅でケーキをつくる場合は、アルミニウムフリーの天然酵母の膨張剤をぜひ使ってください。
(文=郡司和夫/食品ジャーナリスト)