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見切り発車のマイナンバー制度…国民・事業者・行政機関の手間増加で混乱続出、「情報連携」で情報漏洩の不安

文=原田富弘/共通番号いらないネット
見切り発車のマイナンバー制度…国民・事業者・行政機関の手間増加で混乱続出、「情報連携」で情報漏洩の不安の画像1「マイナンバーカード総合サイト」より

 11月2日、政府はマイナンバー制度における「情報連携」と「マイナポータル」の本格運用を11月13日から開始すると公表した。これにより、公的な手続きにおいて添付書類の提出が不要になると広報されている。しかし、その実態は「見切り発車」だ。

 公表された13日時点で情報連携可能な事務一覧では、対象事務937のうち84事務は引き続き「試行運用」として従来どおりの添付書類の提出が必要とされている。これらは7月18日からの試行運用で課題が見つかり、対応が間に合わなかった事務だ。

 また、情報連携可能な事務においても、「事務によっては引き続き提出をお願いする添付書類がある」「各地方公共団体・行政機関において取り扱いが異なる場合があるので、個別に確認を」と注記されている。

 これでは、添付書類の持参は不要と思っていたのに、窓口に行ったら提出が必要だったというようなトラブルが起きかねない。そもそも情報連携の対象となる事務は、1800以上ある。今回、連携を開始できるのはその半分だ。これで「本格運用」といえるのだろうか。試行運用の状況を見てみたい。

マイナンバー制度で実際に何か便利になったか

 マイナンバー制度とは、さまざまな機関ごとに管理している個人情報を、個人や団体を識別する番号を付与することでデータマッチング可能にし、情報提供ネットワークシステムにより共有する共通番号制度だ。個人を生涯追跡可能にし、行政の目から個人情報を丸見えにするための社会基盤となる。

 そのため、2015年10月から個人番号(マイナンバー)が通知され、16年1月からマイナンバーの利用事務で、番号の提供が求められるようになった。政府はこの制度で、国民の利便性が向上し、行政事務が効率化すると宣伝している。

 しかし実際は、私たちは行政や勤務先にマイナンバーの提供が必要になり、その際に番号カードや本人確認書類を提出する手間が増えた。会社など事業者にとっても、マイナンバーの収集や厳格な管理のために手間と費用と責任が増した。そればかりか、行政機関も収集時に必要な厳格な本人確認の手間や番号管理の負担により非効率になっている。これだけ大変な思いをして、どんなメリットがあるのかという疑問が湧くのは当然だ。

大幅に遅れた情報連携とマイナポータル

 この疑問に政府は「情報連携が始まれば添付書類が不要になる」「マイナポータルが始まれば電子申請で手続きが簡単になる」と答えてきた。マイナンバー制度への不満が広がる前に、早く本格稼動させたかったのだろう。しかし、実際は予定より大幅に遅れている。

 情報連携は当初、17年1月に開始予定だったが、準備が間に合わず、17年6月の自治体との情報連携開始に合わせたスタートに変更されていた。しかし、16年に地方公共団体情報システム機構(J-LIS)のシステムトラブルにより、個人番号カードの交付が大幅に遅延する事態が発生した。J-LISは原因について、事前のテスト不足、OS仕様の理解不足、システム開発した5社の連携不足、システムへの過信、想定を超えた負荷などと説明している。

 情報提供ネットワークシステムを開発しているのも、同じ5社だ。そもそもこのシステムは、符号を変換しながら情報連携する複雑な仕組みで、人口1億人以上規模の国でこのようなシステムを運用している前例はない。慎重なテストが必要になり、7月7日に政府は7月18日から3カ月程度「試行運用」することを決めた。

 マイナポータルも17年1月16日に開設した直後、プログラムに脆弱性が見つかり再インストールを求める事態が起きた。開設の設定は大変で、3月には総務大臣がユーザー目線に立った見直しを指示し、10月7日にWindowsパソコンや一部のAndroidスマートフォン向けのソフトをリリースしたが、日本で利用者の多いiPhoneは、いまだに使えないままだ。

試行運用で課題は解決したのか

 試行運用とは、従来どおり添付書類の提出を求めながら並行して情報連携も行い、内容に齟齬がないか確認するものだ。「試行」というが、正式な情報連携であり、その提供記録は開示対象になる。

 しかし、3カ月程度の試行では、課題は解決していないのが実情だ。

 試行中に情報照会を実施していない自治体や事務があり、総務省は何回も情報照会の実施を求める通知を出していた。窓口にとって情報連携は負担になる場合も多い。添付書類が持参されればその場で判断できるが、情報連携ではいちいちパソコンで時間をかけて照会しないと事務が進まないし、来庁者を待たせることにもなる。そもそも何が情報照会する事務か公表されたのは4月21日で、準備も容易ではなかった。利用に消極的になるのはもっともだ。

 総務省の通知の中には「一定の時期にまとめて事務処理を行う予定であった」と回答した自治体に対し、「一度に大量の情報照会がなされた場合、回線やシステムに過度な負担がかかるおそれもあるため」分散して照会するよう求めたものもある。自治体の仕事は繁忙期に集中する事務もあり、J-LISのシステムトラブルの一因にもなっていた。むしろ過度な負担がかかるケースを想定してテストする必要があるのではないか。

 一方、国も厚生労働省関係で情報連携できない事務があり、健康保険関係で添付書類の省略ができない組合を10月20日に公表している。協会けんぽ(全国健康保険協会)も被扶養者分は来年7月まで情報連携できない。15年6月に年金個人情報125万件の漏えいを起こした年金関係にいたっては、来年1月からテストを始め、運用開始は未定だ。

 このような試行で、はたして課題は洗い出せたのだろうか。10月末に試行中の課題をまとめると国は述べていたが、その結果の検証が必要だ。

準備が整わないまま情報連携が開始

 地方自治体は、試行運用開始前後に国から次々と出された指示に追われた。

 情報連携で自動的に情報提供するために、情報提供の対象となる住民情報の副本を情報連携用の「中間サーバー」にあらかじめ保存することになっている。しかし、登録のためのデータのレイアウトに不備が見つかり、来年7月の修正まで一部の事務では情報連携ができないままだ。

 またDV(ドメスティックバイオレンス)や児童虐待などの被害者の情報が加害者に伝わる危険が、情報連携による他の自治体や機関への情報提供やマイナポータルによる情報開示によって増す。そのため、該当者について自動的な情報提供や情報開示を停止する措置が必要だが、国がその通知をしたのは試行開始直前の7月13日で、どこまで対応できたか不安が残る。

 さらに5月30日、情報連携の際に地方税関係情報について本人同意をとるよう求める告示が出た。番号法では、情報提供ネットワークシステムの利用が認められている事務では、情報保有機関は照会を受けた場合に提供を義務づけられており、本人同意は不要とされている。ただ、社会保障の給付や費用の減免の際に、所得を判断する資料として使われる地方税関係情報については、地方税法の守秘義務との関係で本人同意が必要な場合がある。しかし、対応は遅れ、総務省や内閣府は本人同意取得の進捗状況の報告を、10月4日になって自治体に通知していた。

 本人同意が必要な事務で、同意を得ずに情報提供した場合、地方税法の秘密漏えい罪で2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられるおそれがある。番号法でも法令違反の提供となる。この本人同意は、告示によると情報照会する側が得ることになっており、処罰される情報提供側は本人同意の有無を確認できない。これでは職員は恐ろしくて提供できないのではないか。

「本格運用」ではなくマイナンバー制度の見直しを

 マイナンバー制度に個人情報の大量漏えい、成りすまし犯罪への利用、個人情報の差別的利用、国家による一元管理などの危険があることは国も認めており、全国8カ所で利用差し止めを求める訴訟が起きている。現在、マイナンバーカードの交付率は10%にとどまり、政府は普及に躍起だ。マイナンバーの提供を拒否する動きも広がり、税の確定申告では2割が未記入だった。

 来年1月からは銀行口座開設時に、任意でマイナンバーの提供が始まるが、金融機関窓口では番号記入をめぐるトラブルが続き、金融庁は今年2月に金融機関に対して、マイナンバーが提供されないことを理由に手続を拒まないように求める通知を出している。「公平・公正な社会の実現」を掲げるマイナンバー制度だが、実際にチェックできるのは、せいぜいサラリーマンの扶養控除の重複くらいだ。「パナマ文書」「パラダイス文書」によって暴露された大金持ちの税金逃れの現実を知ると、マイナンバー制度は弱い者いじめにしか見えない。いったいなんのための制度なのか、よく検討して見直しをすべきではないだろうか。
(文=原田富弘/共通番号いらないネット)

原田富弘/共通番号いらないネット

原田富弘/共通番号いらないネット

●共通番号いらないネット
2015年2月に共通番号制度に反対する市民・議員・研究者・弁護士・医師などさまざまな立場の人々が集まる開かれたネットワークとして結成された。正式名称は共通番号・カードの廃止をめざす市民連絡会

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