アメリカのドナルド・トランプ大統領が、6月12日に予定されていた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との米朝首脳会談を中止することを発表した。
最近になって態度を変化させた北朝鮮に対して、トランプ大統領は何度も警告を行ってきたが、北朝鮮はそれを“ブラフ”ととらえていたのだろう。しかし、日米が要求する「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」に応じる姿勢を示さない金委員長に対して、トランプ大統領が“マジギレ”したかたちだ。
トランプ大統領は中止の理由について「今は不適切」としており、金委員長に対しては「いつの日か会えることに期待」と仕切り直しを示唆しながらも、「アメリカの強力な核兵器を使わずに済ませたい」と軍事攻撃もにおわせている。
実際、トランプ大統領はジェームズ・マティス国防長官らに対して、必要であれば軍事的な態勢を整えるように命じたことを明らかにしており、すでに米軍は準備済みであることをアピールしている。
また、5月22日には米海軍のイージス艦「ミリアス」を横須賀基地に追加配備しており、6月には世界最大級の米海軍病院船「マーシー」が東京港に寄港する予定だ。ミリアスは最新のミサイル防衛能力を備えており、病院船は基本的に大規模な戦争などの場合にのみ運用されるものである。
戦力増強を進めている背景には、対話と軍事オプションという二段構えの対応があったわけだが、会談中止によって後者が現実味を増してしまったといえる。トランプ大統領は「最大限の圧力は続く」としており、今後も予断を許さない状況が続きそうだ。
北朝鮮の増長を抑えられなかった韓国
また、この過程において、韓国がもはや無用の長物であることが露呈したのではないだろうか。韓国の文在寅大統領とトランプ大統領は22日にワシントンで会談を行っており、これは米朝首脳会談に向けてのすり合わせが主な議題とみられていたが、会談中止という判断を見る限り、これは失敗に終わった可能性が高い。
もともと、文大統領の特使が金委員長からの申し出をトランプ大統領に伝えて、会談が実現しかけた経緯がある。その後、韓国は南北首脳会談にこぎつけたが、16日には北朝鮮から一方的に南北閣僚級会談をキャンセルされ、北朝鮮が米朝首脳会談の再考を示唆した際には「仲介役を果たす」と名乗りを上げていた。しかし、結果的には北朝鮮の増長を抑えることはできず、アメリカの怒りを買っただけであったといえる。そうした経緯に鑑みると、そもそも韓国に米朝間の橋渡し役は荷が重すぎたといわざるを得ない。
米朝会談中止で米中の対立が決定的に
また、会談中止に至った背景には中国への不信感がある。トランプ大統領は習近平国家主席と金委員長が二度目の会談を行った7~8日以降に北朝鮮の態度が変化したことを指摘しており、習主席に対して「ポーカーの腕が超一流だ」「誰かのせいだと言っているわけじゃない」と発言しているのだ。かねて中国は北朝鮮が求める段階的非核化に理解を示しており、そのため北朝鮮に強気な交渉をするよう働きかけていた可能性がある。
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