6月に開催が予定されている米朝首脳会談に向けて、米朝間の事前交渉がヤマ場を迎えていたが、米国は24日、会談の中止を発表した。だが、トランプ米大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長宛ての書簡内で、「いつかあなたと対面できることを期待している」「もし首脳会談について考えが変われば、いつでも連絡をしてほしい」としており、会談実現に関して含みを残している。
日本国内では「無法者国家」である北朝鮮が暴走しており、米国は軍事的オプションを行使してでも北朝鮮の崩壊を望んでいるとの基本認識に立つ人が多い。だが米国というのは、ときに冷酷なまでに合議主義的な国であり、自らの利益になると判断した場合には、相手が独裁国家でも交渉で物事を解決してしまうことがある(サウジアラビアなどはその典型)。結局のところ独裁者が求めるのは体制の維持と、それを可能にする莫大な資金であり、米国はこれを熟知している。
筆者は、昨年から一貫して、米朝交渉のポイントは金氏の体制維持とカネの問題であることを指摘してきた。もしこの見立てが正しいのだとすると、米朝会談が実現した場合、それと前後して、必ず経済的な問題が浮上してくるはずだ。場合によっては、日本は難しい選択を迫られるかもしれない。
水面下で進み始めた北朝鮮ビジネス
北朝鮮はこれまで何度もミサイルを発射するなどして、国際社会に対する挑発を繰り返してきたが、その目的はただひとつ、米国を交渉のテーブルに引っ張り出すためである。
金氏は、自らの体制保証と資産保全を強く求めており、これらが満たされるのであれば核を放棄する用意があると主張している。一方、トランプ政権は朝鮮半島問題を解決したいという強い意思を持っており、ある程度までなら北朝鮮に対して譲歩してもよいと考えている。
これに加えて、南北が和解し、統一に向けて動きだすのであれば、そこから得られる経済的メリットを享受したいとも考えているはずだ。米朝会談はこの部分について双方がどこまで折り合えるかがポイントとなる。
これまでも、北朝鮮側が激高して会談の取りやめを示唆すると、トランプ大統領が、すかさず「体制保証の用意がある」と発言する場面が見られた。つまり北朝鮮にとっては、体制保証が交渉の最優先事項だということがわかる。今回、トランプ大統領が会談中止を通告しつつも、開催に含みを残したのは、体制保証を切り札に、非核化においてより有利な条件を引き出せると考えているからだ。