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都教委、偽装請負疑惑で労働局が再び行政指導…順法意識の欠如と腐敗した体質が露呈

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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都教委、偽装請負疑惑で労働局が再び行政指導…順法意識の欠如と腐敗した体質が露呈の画像1
東京都教育委員会が入る東京都庁第二本庁舎(「Wikipedia」より)

 東京労働局が6月8日、小池百合子東京都知事宛てに「指導票」を出した。

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 当サイト3月22日付記事『都立高校、偽装請負疑惑で労働局が2度目の調査…学校図書館の民間委託が破綻』で都立高校の偽装請負疑惑について報じたが、その後、2度目の行政指導へとつながっているのだ。

 日本の首都である自治体の教育現場が、労働局から違法労働の疑いで指導を受けるとは、いったい何があったのだろうか。

「東京都が東京労働局から指導を受けた」との情報を筆者が得たのは、都議会議員選挙の結果が出た翌週の7月13日のことだった。その翌日、都教委の担当部署に確認すると、都知事あての指導票が出されたことは渋々ながら認めたものの、「是正指導ではない」「派遣法違反かどうかは言えない」との回答だった。だが、数日後、その指導票のコピーを入手してみると、違法性の疑いが濃厚であることが判明した。

 指導の対象になったのは、民間企業に運営委託されている都立高校の学校図書館業務だ。

 指導票には「当該業務について調査を行ったところ、教員から、受託者の労働者(略)への直接指示が疑われる状況が認められた」として、公務における不適切な行為の存在が示唆されている。

 発注者が労働者に直接指示命令を出せるのは、労働者派遣事業だけ。請負として業務を遂行する場合、発注者は本社の業務責任者を通して指示命令を出さなければならない。派遣業は、国の許認可を得た派遣会社が、その厳しい規制の範囲内でのみ例外的に許されている。無許可の請負業者が”手配師”のように自由に行えるものではない。

 今回出されたのは指導票であり、是正指導ではない。いったいどう違うのか。行政指導に詳しい労働局の関係者は、次のように解説する。

「違反の事実が確認できなくても出せるのが指導票です。是正指導も指導票も行政指導ということで本質的には同じですが、当然、違反の事実が認定された是正指導のほうが厳しいというか、重いという見方になります」

2015年に出された是正指導

 民間委託された都立高校の学校図書館においては、2015年7月にも偽装請負として違法認定され、当時の舛添要一都知事宛てに是正指導が出されている。これについては当サイトでも、たびたび取り上げてきた。

 その際、都教委は、二度とこのような違法行為が起きないよう、仕様書を改定して委託の仕組みを根本的に見直すと同時に、各現場へも法令の理解が進むよう通達を出して、一件落着したはずだった。

 ところが、昨年9月の東京都議会で都民ファーストの会所属の米川大二郎議員が一般質問の中でこの問題をとりあげてから、事態は急変した。米川都議が学校図書館を民間委託している都立高校へ独自に行った調査によって、違法状態が改善されていない実態が浮かび上がってきていたのだった。

 都教委が脱法的ともいえる手法によって違法性を回避しているのではないか。そして、委託校の現場では、いまだに偽装請負が疑われる行為が行われているのではないか――。

 米川都議が所属する都議会与党を通して、都教委との交渉を、その後も半年近く続けた結果、委託は全面的に廃止が決定。さらに、今後2年をかけて直接雇用(ただし会計年度任用)に戻す方針が、3月の都議会で示された(『東京都・学校図書館の民間委託を廃止させた都議に聞く(1)…業務委託推進の波を覆せた理由』参照)。

 今回の労働局による指導票は、米川都議が行った違法性の指摘を追認するかたちで出されている。委託廃止が決まっても、法違反が疑われる実態がないか、都教委は改めて点検して確認せよとのお達しが出されたといえる。

是正指導後に都教委が講じた脱法的な対策

 では、都教委が2015年の是正指導以降に講じた脱法的な対策とは、いったいどんなものだったのか。その点を改めて振り返っておきたい。

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米川都議作成資料より

 平成27年度の仕様書では、委託者である学校は、受託企業の本社にいる業務責任者を介して現場の業務従事者(司書)とやりとりするフロー(上図①)になっていた。

 ところが、令和元年の仕様書では、「業務責任者」は本社ではなく、なぜか受託先である都立高校の内部にいて、業務従事者を兼務するかたちになっていた(上図②)。別に、本社内に設置された「受託者」が、改定前の業務責任者の役割を担う仕組みに変わっていたのだ(上図③)。

 これにより学校側は、毎日現場にいて従事者と兼務した「業務責任者」とやりとりをしても問題がなくなった、と思われていた。

 工事現場にたとえれば、現場の作業員を全員「現場監督」にしたようなものだ。元請社員は通常、作業員に直接指示命令は出せないが、作業員が全員「現場監督」を兼務すれば、誰にでも指示命令できる。

 しかし、形式的には問題なくても、実態はその能力がない名ばかり「現場監督」となれば、話は大きく違ってくる。派遣でもないのに発注者が直接現場に指示命令を出すのは偽装請負の可能性があるという点は、かねて図書館関係者から指摘されていたことだった。

 都立高校の学校図書館では原則として、業務を円滑に処理できるよう複数人の従事者を配置することを委託会社に求めている。ただし例外として、午前中と17時以降については1人配置でもいいとされている。

 そのため、生徒の昼休み開始時刻から17時までなら、従事者を兼務している業務責任者を通して学校側は指示命令を出すことができるが、問題となるのは1人勤務になる午前中と夜間の時間帯である。

 労働局では、業務責任者(現場監督)と業務従事者(作業員)を兼務したからといって、ただちに違法とはいえないと判断している。しかし、業務責任者を兼任していたとしても、作業員が1人しかいない時間帯に発注者から現場へ注文があった場合、専任の管理者がいない状態とみなされて、明確に違法性を認定しているのだ。

 独自に行った都立高校への調査によって、この仕様書上の脱法性を指摘した米川都議は、こう解説する。

「労働局は、1人勤務のときに業務責任者と業務従事者を兼務するケースを、典型的な偽装請負の1類型と位置付けて、リーフレットにも明記しています。都立学校の図書館では、目の前にいる委託会社の各スタッフが、どの時間帯にどのような身分(業務責任者か否か)で就業しているかを、学校側も十分に把握していなかったので、これまで違法の可能性は高いと言い続けてきました」

 それに対して、当初「違法性はない」と、民間委託を継続する方針を堅持していた都教委だったが、都議会与党からの正式申し入れなどのプレッシャーがあり、また年明けには委託校に労働局の調査が突然入るなどしたために、3月の決算委員会で方針転換。ついに藤田裕司教育長が、同事業の委託を全面的に廃止して今後2年間かけて直接雇用に切り替えると明言したのだ。

都教委の腐敗した体質

 そうした流れで今回、東京労働局から都知事宛てに指導票が出されたことの意味はとてつもなく重い。

 今回の指導票が出されたことについて、ある図書館関係者は、都教委の腐敗を象徴した出来事ではないかと断じる。

「指導票の文章は、業務責任者だけの問題ではなく、もろもろに違法行為が起きていてもおかしくない状態にあるという意味に取れます。

 請負と労働者派遣の区別がついていないということです。たとえば、『措置の必要性』の欄には、『発注者である東京都は、自ら各学校における図書館の状況を十分に理解・把握し、図書館業務担当教員のみならず全ての教員に対して適正な委託運営実現のための指導を』と、いまさら法律の主旨をゼロから周知するよう要請しています。唖然とする状況です。東京都がここまで指導されたのですから、学校図書館を民間委託している他の自治体への影響は、計り知れないものがあると思います」

 ある受託企業の関係者は、都立高校の学校図書館の委託事業は、外部の人材を活用することで、蔵書整備や配架を効率よく進めていき、開館時間も伸びたことで成果を上げてきたはずだと胸を張る。だが、その一方で、都教委や高校側の対応については、こんな不満をぶちまける。

「教師は毎日、それも業務終了間際に司書室にやってきて、あれやこれや事細かく指示します。機嫌の悪いときは、特にひどいものです。この高校に労働局が入ったら、一発アウトだったでしょう。別の高校の担当教師は、まるでやる気がなく、直接指示はありませんでした。指示書は経営企画がつくっていました。

 都立高校の能力の低さは驚くほどです。どれだけ時代遅れか、という感じです。もちろん一校一校違いますし、校長の力量が大事なことは言うまでもありません。教育庁は、行政組織の中でかなり遅れたところだと思います」

 では、指導票が出たことで、今後どのような展開になるのか。前出の労働局関係者は、以下のように解説する。

「今回は明確に違法の事実は確認できなかったけれども、都の責任で確認をして、万が一違法状態があれば善処しなさい、すみやかに点検しなさいとなっているので、都はそれに対応することになるでしょう。ただし、あくまでも違法認定のない指導票ですから、今後、確認したけれど問題は見つからなかったという回答になることも十分に考えられます」

 違法性を解消するために都教委は今年4月以降、1人勤務の時間帯に追加で各現場
にもう1名、専任の業務責任者を配置するとしていた。ところが、米川都議が指導票が出
た後に確認したところ、追加契約が完了したのは、学校図書館を民間委託している都立高
校128校中3校にすぎなかったという。つまり、125校は依然として違法状態のまま放置
されている可能性が高いという。

 前出の図書館関係者は、都の姿勢をこう厳しく糾弾する。

「15年の1回目の是正指導を受けて改善したら、今度は正したことに対しても指導が出されたとのですから、都庁の体質、あるいは都教委の腐敗した体質を明らかにしたように思います。順法意識が著しく低いのではないでしょうか」

 都教委は今回、労働局から違法性を指摘された件に関して、いまだに何も発表を行っていない。3月の藤田教育長答弁でも「指導要領の改定に伴い、学校図書館の機能を、より一層活用するために」委託から直接雇用の会計年度任用に切り替えていくとしただけで、偽装請負が疑われる事案で労働局から調査を受けたことについては一言も触れていない。そのためなのか、新聞報道等も一切ない。

 15年に出された是正指導のときと同じく都教委は今回もまた、不祥事を公にせず、誰も責任を取らず、うやむやにしてしまうつもりなのだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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