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“モリゾウ”社長に社内からも「アホづら」と陰口

株価低迷のトヨタは豊田章男社長で立ち直れるのか?

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post_114.jpg所詮は、おぼっちゃまの道楽?(「toyota 86」公式サイトより)
 5月9日、1年ぶりに決算発表会見に姿を見せたトヨタ自動車の豊田章男社長(56)は「いいクルマを作り、収益につなげ、再投資して、いいクルマを作る」と”いいクルマ教”の教祖として面目躍如だった。

 今期(13年3月期)の連結営業利益は、前期比2.8倍(12年同期比)の1兆円を目指す。「最低ラインとして1兆円の利益を確保したい」と決意を述べた。

「数値目標を出すと数字が一人歩きする。トップが数値を掲げてそれが絶対目標になると、経営がおかしな方向に向かう」

 章男社長は、常々こうした強い思いを持っていたが、決算発表ではこの思いを引っ込めざるを得なくなった。

 というのも今回の決算のキーワードは、「営業利益1兆円」だったからだ。自動車担当アナリストの予想営業利益のコンセンサス(平均)は、1兆391億円。アナリスト・コンセンサスを下回ると、強気の予想を発表しても株は売られる。「章男サンに1兆円と言い切る度胸があるかどうか」(ライバル会社の経理担当役員)と注目されていた。日本経済新聞が決算発表直前に前打ちした記事(4月30日付朝刊1面)によると「営業利益は8000~9000億円」だった。事実、社内には円高や欧州の経済危機に伴う販売の足踏みを考慮して、見通しを9000億円台に抑えるシナリオがあった。しかし、最終的に1兆円の大台乗せを決め、章男社長は退路を断った。

 08年3月期に営業利益2兆2704億円と過去最高を記録したが、リーマン・ショックによる消費低迷のあおりを受け翌09年同期には営業赤字に転落。その後も利益は低迷を続けた。営業利益が1兆円の大台を回復すれば、5年ぶりのこととなる。

 今でも語り草になっているが、章男社長の施政方針演説ともいえる「トヨタ・グローバル・ビジョン」が東日本大震災の2日前の昨年3月9日に発表された。この時点で「連結営業利益率5%、営業利益1兆円程度」を掲げた。今回の決算見通しと同じ数字だ。株式市場はトヨタは本来の競争力を取り戻したのかと注視したが、東日本大震災で同ビジョンは幻となった。章男氏は数値目標から遠ざかり、いいクルマ作りしか言わなくなった。

 営業利益率も前期の1.9%から、今期は4.5%に回復する見込みだ。だが、競合他社に比べると、まだまだ見劣りする。ホンダは2.9%から6.0%に急回復する見通しを示しており、11日に決算発表予定の日産自動車の12年3月期の営業利益率は5.4%と推定されている。今期、これを上回るのは確実だ。過去を振り返るとトヨタの08年3月期の営業利益率は8.6%。この時期にはホンダや日産を上回っていたが、その後は両社の後塵を拝している。

 収益回復のテンポが鈍い最大の原因は、国内の高い固定費と生産の海外移転の遅さにある。一言で言うなら超円高に対応するグローバル化が進んでいないのだ。「国内生産300万台」に章男氏は固執しており、今期のトヨタ、レクサスブランドの生産台数は340万台だ。

 そして今期は国内で生産するクルマの59%に当たる200万台を輸出する計画。1円の円高による営業利益の押し下げ額は、前期の320億円から350億円程度に拡大する見通しだ。国内需要は夏場にエコカー補助金が切れ、反動減が予想されている。「下期は好調な米国市場向けの輸出で(国内の落ち込みをカバーする。)(小沢哲副社長から)、それだけ為替リスクが増大するわけだ。対ユーロでは、円が1円高くなると50億円も営業利益が減る。国内生産に固執し続ける章男社長が考える経済合理性とは何なのか。投資家の、この素朴な疑問にまず答えなければ、株価の本格上昇はないだろう。

 国内生産にこだわる章男社長の姿勢を、アナリストは数年前から「ホンダや日産に比べて周回遅れ」と指摘してきた。競合メーカーに比べて国内生産比率が高いことが収益の足かせになってきた。

 米ウォールストリート・ジャーナル(11年12月29日付の電子版)は、12年に注目する「世界の経営者12人」を発表した。章男社長については「(トヨタの)運命を左右する年になる」と予測。記録的な円高が日本の自動車産業の輸出採算を悪化させ、他メーカーが生産の海外シフトを急ぐ中、「(日本での)年間300万台の維持を約束している」と紹介。その上でトヨタの株価低迷に触れて、「日本にとって良いことはトヨタにとって良いことか。その逆もまた同じだろうか」と論評した。ウォールストリートの、この記事は豊田章男という経営者の姿勢に疑問を呈しているのだ。

 言うまでもないが、トヨタが強気の反転を実現できるかどうかのカギを握っているのは新興国市場だ。ブラジルやインド、ロシアなどで、ライバルのドイツのVW(フォルクスワーゲン)や韓国の現代自動車に展開力で負け、「急成長が見込まれている市場での存在感は薄い」(有力な自動車担当アナリスト)。世界販売に占める先進国と新興国の比率を「現在の6対4から5対5にしたい」(章男社長)と意気込むが、新興国市場に合った商品作りと展開のスピードアップが急務だ。新興国への取り組みは、やっと緒に就いたばかりである。

 章男氏の会見を見ていると、日本のリーディングカンパニーの経営トップとして、切迫感がまったく感じられない。かつて「3つの資本主義がある」と言ったことがある。彼が信奉するのは「公益資本主義」。「国内の雇用やものづくりに貢献できなければ意味はない」というものだ。残る2つはM&A(合併・買収)で攻勢をかける「巨大資本主義」と国の強力な後押しを受けて海外展開を進める「国家資本主義」と規定している。前者はVWや日産自動車のことを言っているのだろう。後者はアメリカ・ゼネラル・モーターズ(GM)や韓国・現代自動車の行動原理を指すようだ。

 しかし、ここに根本的な疑問がある。トヨタは公益資本主義で大きくなった会社なのか。国家資本主義のリーダーとして対米輸出を切り開き、巨大資本主義のアクセルを強く踏み込んで世界一の自動車メーカーに変身したのではないのか。

 株式市場(マーケット)が求めている経済合理性と、どう折り合いをつけるつもりなのか。その決意はあるのか。トヨタの国内事業を担う単体決算を見ると、02年3月期の営業赤字は4期連続の赤字で4398億円に達した。今期も700億円の赤字を予想。「赤字を消すために今期中にできるだけの努力をする」(小沢哲副社長)としているが、黒字化のメドは立っていない。「いいクルマを作る」などというきれいごとで経営ができるわけがない。短期間のうちにリターン(利益=数字)を求める投資家の理解を得られるとはとうてい思えない。「数値目標を重視する経営から価値目標への転換」などと、章男社長をトコトン、ヨイショする記事を書いた全国紙の編集委員がいたが、経営(の成果)というのは、せんじ詰めれば数字なのである。数字が経営者の能力を映す鏡である。

 彼が絶えず口にする「いいクルマ」のイメージはどんなものなのか。具体的には富士重工業と共同開発した小型スポーツ車「86(はちろく)」を指しているのだろう。「86」は章男プロジェクトと言われている。

 2月2日、千葉・幕張メッセで、新たなスポーツカルチャーの夜明けを祝うと銘打ったイベント「86 Opening Gala Party」を開催した。ステージ上では「86」のライトニングレッドのモデルがお披露目され、運転席から、レーシングドライバー”モリゾウ”こと章男社長がレーシングスーツ姿で登場した。「ここ10数年の間に、トヨタのスポーツカーは次々とドロップ(市場から消えたという意味だろう)。私たちはそのことを真摯に反省し、86の開発を進めてきた。86はドライバーと語り合い、ともに進化できるクルマに仕上がった」とあいさつした。彼は国際C級ライセンスを取得し、”モリゾウ”というハンドルネームで度々、ドイツ北西部で開催されるニュルブルクリンク24時間レースに参戦するなど、モータースポーツ愛好家として知られている。

 だが、章男社長が入れ込んでいる「86」の国内販売目標は、年1万2000台にすぎない。年1万2000台を売るだけなのに、アフターサービス店の「AREA(エリア)86」を全国展開する。「クルマの楽しさを演出し、顧客とのつながりを深める」のが狙いだ。「脱・売り切り」を掲げ、台数至上主義の販売手法に一石を投じる、と親トヨタのマスコミからは高い評価を得たが、トヨタから台数至上主義を除いたら何が残るというのだ。

 発言や経営者として行動株式を見る限り、脇の甘さが目立つ。「ただのクルマ好きが道楽で自動車メーカーのトップが務まる時代ではない」という時代認識が、章男社長には欠けているように映る。豊田家の御曹司である章男社長は周囲をイエスマンで固め、苦言を呈する骨のある役員は経営陣に一人もいなくなった。「ブレーキのないスポーツカー」になっているとすれば、それは大変危険なことだ。

 新型スポーツ車「86」の発表会で、レーシングスーツに身を包み、満面の笑みを浮かべる章男氏の写真を見て「アホヅラするな」との厳しい声が社内から上がったことを彼は知らない。誰も伝えない。裸の王様になりつつあるのだ。カーガイ(クルマ好き)で、ワンマンで、その上、癇癪持ちの若い社長を戴くトヨタの社員に、深く深く同情、申し上げる。

 豊田家は創業家ではあるが、豊田家が保有するトヨタ自動車株式は2%に満たない。章一郎(名誉会長)、章男(社長)の親子に限れば0.45%に過ぎない。豊田家はトヨタの大株主ですらないのだ。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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