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EV敗戦 日産のカルロス・ゴーンCEOが戦略を大転換

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カルロス・ゴーンまだ60歳手前とお若いゴーン氏。
(「ウィキペディア」より)
 日産自動車のカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)は年が押し詰まった2012年12月28日、横浜市の本社で報道各社とインタビューを行ったが、いつもの自信に満ちあふれたゴーン節は影を潜めてしまっていた。

 日産の世界販売の4分の1を占める中国については決定済みの計画を「見直すことはない」としつつも、今後、日中関係の悪化の影響が長引いた場合は「(それを)長期的な事業計画に反映せざるを得ない」と中国戦略の見直しを示唆した。

 EV(電気自動車)についての発言も歯切れが悪かった。「日産自動車は今後も引き続きEVに重点を置いて推進していく」と語る一方で、EVの普及速度については経済状況や政府の政策などさまざまな要素が絡むため「読みにくい」と指摘。EV戦略がブレているかのような発言をした。

 日産は次世代エコカーについて「HV(ハイブリッド車)ではなくEVを選択する」(ゴーンCEO)との経営姿勢を明確にしてきた。しかし、10年12月に発売したEV「リーフ」は販売低迷が続いている。

 日産は2017年3月期までの中期経営計画「パワー88」において、仏ルノーとともに世界市場で累計150万台のEVを販売する計画を立てている。13年同期は世界販売で4万台の目標を掲げているが、12年4~10月の販売実績は1万4800台にとどまり、目標を大きく下回った。これまでに世界で販売したリーフの累計台数は、わずか4万台。ゴーンCEOが掲げた世界累計150万台の目標に、早くも赤信号が点滅している格好だ。

 日産は12年12月12日、17年3月期末までに15車種のハイブリッド車(HV)を販売する計画を発表した。日産のHVは現在、ミニバン「セレナ」、高級セダン「フーガ」の2車種しかない。それを家庭の電源から充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)も含めて、HVを計17車種にまで拡充する。HVが車種全体の3分1程度になるという。

 HVの大量投入は、EVを次世代エコカーの本命と位置付けてきた日産にとって、大きな方針転換に見える。会見した志賀俊之・最高執行責任者(COO)はHVを拡充する理由について、「(EVが本格的に普及するまでの)途中経過としてハイブリッド化は必然だ」と述べ、EV重視の基本方針に変わりはないと強調した。

 志賀COOは方針転換を認めるわけにはいかなかった。建前としてはEVが本命だが、実質的にHVに転換するという苦肉の策である。

 ゴーンCEOは先に述べた年末の会見で、HVを投入することについて「(EVへの賭けを)ヘッジしているとは見なさないでほしい。全くそうではない」と強調。「HVを求める消費者や市場が存在する以上、HVを提供するのがメーカーとしての使命だ」と、苦しい弁明をした。EVの先頭バッターを自負しているゴーンCEOは、EVからの方針の大転換を口にするわけには、断じていかないのである。

 鳴り物入りで登場した日産「リーフ」、三菱自動車「アイ・ミーブ」のEV陣営に強い逆風が吹きつける。

 トヨタ自動車はこのほど小型EVを開発したが、販売台数は年間100台。しかも、リースに限定して売る。2年前には数千台の販売を想定していたが、現状ではEVの普及は難しいとして計画を大幅に縮小。「EVの研究はやっています」程度の販売にとどめた。

 日産や三菱自のEV先行メーカーにとって、トヨタの計画の縮小は誤算だった。トヨタやホンダのライバル各社がEVを投入することで、EV市場が拡大していくと考えていたからだ。

 HVを前面に押し出すトヨタは現在、看板車種の「プリウス」や「アクア」など計22車種をそろえ、さらに15年末までに21車種を追加する。12年11月の国内の車名別新車台数ではアクアが1位、プリウスは2位でHVが高い人気を誇る。

 ホンダも「フィット ハイブリッド」を発売するなどHV重視路線だ。

 EV普及の遅れは構造的なものだ。充電網の不足や1回の充電での走行距離の短さという、使い勝手の悪さもあるが、価格が高いことがネックだ。ガソリン車やディーゼル車の既存車種が高い燃費性能と低価格を両立させていることが、EVの販売低迷の背景にある。

 販売が低迷するから生産が増えない。だから値段は下がらず、普及しない。普及しないから急速充電器などのインフラの整備の遅れにつながる。それが、また販売を低迷させるという、まさに悪循環に陥っている。

 日産はようやくHV重視の現実的な戦略に舵を切った。だがEVの盟主、日産は、決して「EVのクルマとしての未成熟さ」を認めようとしない。

 13年は、まず、EV敗戦を認めることから始めなければならない。これはカルロス・ゴーンCEOの経営責任を問うことになるが、現在の日産の経営陣に、ゴーン氏の首に鈴をつけることができる力量を持った役員はいない。だから、経営責任は不問にするしかない。

 とはいっても、EVからHVに戦略を大転換するのであれば、なし崩しに進めるのではなく、いったん区切りをつけるべきなのではないか。EVの敗北宣言である。

「EVは期待外れでした」と、はっきり言うべきなのだ。

●2013年世界のEV事情

 世界のEV普及台数は8万台程度だという。自動車市場全体の0.1%にすぎない。世界でEVを量産しているのは日産自動車と独ダイムラーだけだ。

 13年は米GM(ゼネラル・モーターズ)が、同社初の量産型EV「スパークEV」を発売する。独VW(フォルクスワーゲン)は「イー・アップ」を投入する。米欧2強がそろってEVに参入するといえば、大きなニュースだが、両社とも至って現実的だ。はっきり言えば慎重なのだ。

 GMはHVなどを含めた「エコカー」というジャンルで17年までに年間50万台を売るとしている。とはいっても、このうちのEVの割合は極めて少ない。

 18年の世界の自動車販売台数を1000万台としているVWでも、PHVを含めてEVの比率は3%、30万台である。VW傘下の独アウディは12年末に予定していたEVの販売を無期延長した。理由は、リチウムイオン電池の価格が想定した通りに下がらないからだ。

 独BMWは13年に小型EVの生産を始めるといわれているが、価格は日本円で400万円台後半。EVの最大のネックといわれている高価格の解消のメドは立っていない。

 充電規格の問題もある。日本企業は、東京電力が主導する「チャデモ」。これに対して欧米は「コンボ」である。互換性がない。GM、VWなど米独8社は「コンボ」を採用し、世界標準にする動きを強めている。

 後発メーカーは充電規格がどうなるかを見極めてからでも十分に間に合うとみていて、焦って新規参入するところはない。

 世界市場でEVが確固たる地位を築く上での大前提となっていた“ガソリン・レス”の時代が、当分来ないことが判った意味も大きい。米国のシェール革命である。もし、そういう事態が起こるとしても、ガソリン社会が終焉するのはかなり先となった。ガソリン車→EVに移行するという仮説そのものを、見直さなければならなくなっている。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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