企業は、厚生年金、社会保険、雇用保険に加入することが義務付けられている。そして、厚生年金に加入している会社(適用事業所)に常時雇用される70歳未満の人は、国籍や性別、年金受給の有無にかかわらず、厚生年金の被保険者となる。また、株式会社でなくても、従業員が常時5人以上いる個人の事業所は、農林漁業やサービス業などの場合を除いて、厚生年金の適用事業所となる。
法律ではこのように定められているが、実際には厚生年金や社会保険に加入していない会社や事業所が少なからずある。厚生年金と社会保険の保険料は従業員と会社側で折半だが、国民年金と国民健康保険は個人で全額自己負担なので、会社員は損をすることになる。中小零細企業の中には、業績が悪くて保険料を負担することができずに加入していないところもあるが、悪質なのは、単に保険料負担がいやで意図的に逃れているケースだ。
●350万人が未加入、2.78兆円の未払い
厚生年金に未加入の会社員は、一体どのくらいいるのか。昨年秋の臨時国会でもその人数をめぐって問題になったが、民主党の長妻昭元厚生労働相が詳しく説明する。
「約350万人が会社員なのに国民年金というのが実態です。この数字は厚労省のHPでも発表されており、厚生年金へ未加入の会社員の未払い分保険料総額は2.36兆円にも上ります。すでに厚生年金に加入はしているものの、未払いの人もいて、その保険料総額が4205億円。これを足した2.78兆円の半分、つまり約1.4兆円ほどの保険料を経営者が未払いで得していることになります。会社員であっても労働時間が週30時間未満であれば、現行ルールでは厚生年金の加入対象とはならないのですが、法改正して加入対象とすれば、1.08兆円(医療含む)が徴収できます」
1日6時間で週5日働けば、週30時間になる。正社員じゃなくてもこれくらい働いている人は多いが、厚生年金の加入義務について政府はどう考えているのか。
「民主党は、年金一元化などの大きな改革はともかく、まず簡単にできるところから着手しようということで、会社員をすべて厚生年金にするよう自民党に求めています。しかし、自民党はそれすらも拒否しています。現在の制度を、とにかく変えたくないという。それをやれば、企業や経営者の負担が大きくなるからです」
さらに長妻氏は安倍晋三首相の姿勢も批判する。
「国会で安倍首相に『どんな国をつくりたいのか』と質問したら『世界で一番、企業が活躍できる国』と答えました。完全に企業サイドに立っている。企業が潤えば、働いている人もその恩恵を受けて、社会の末端にも波及するという考え方。トリクルダウン理論といいますが、それでうまくいった国を見たことがありません」
厚生年金保険法では、厚生年金の加入逃れに対して、懲役6カ月以下または罰金50万円以下の罰則を規定しているが、これまで適用された例はほとんどない。まだ民主党政権だった一昨年春、厚労省は厚生年金の保険料を払わない悪質な企業の事業主を、厚生年金保険法違反容疑で警察に告発して、社名を公表すると決めたが、その後、同省が本腰で取り組んでいる様子はみえない。