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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

「マイナス金利や異次元緩和により銀行貸出増」は根拠なきデタラメである

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
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「マイナス金利や異次元緩和により銀行貸出増」は根拠なきデタラメであるの画像1日本銀行(撮影=編集部)

 最近、「日銀がマネタリーベース(現金+準備)を拡大すれば、民間銀行は貸出を増やすはずである」旨の主張がインターネット上で見られるが、超過準備が現在のような状況では、これは根拠なきデタラメで誤解である。以下、順番に説明しよう。

 まず、現実の経済にはいくつもの異なる家計や企業、銀行等の金融機関が存在しているが、政府部門・日銀のほか、ひとつの民間銀行しか存在しないものとする。また当初、政府部門・日銀・民間銀行のバランスシートは以下の通りとする(注:簡略化のため、日銀が保有する国債以外の資産や自己資本ほか、民間銀行の自己資本などは無視する)。

「マイナス金利や異次元緩和により銀行貸出増」は根拠なきデタラメであるの画像2図表1

 上記の日銀バランスシートの負債側にある「現金」は市中に流通している日銀券残高を意味し、「準備」は中央銀行が民間銀行から預かっている預金(=日銀当座預金)を意味するが、民間銀行が貸出を増やしても、準備は基本的に変化しない。

 この理由は2つあり、ひとつは現在の超過準備が異常な規模に達しているためである。また、もうひとつは、現代の金融システムで資金決済の中核を担うのは「現金」でなく、「預金」であるためである。この事実を理解するため、たとえば、家計AがB社の不動産を購入する際、図表1で、民間銀行が家計Aに50の貸出を行う場合を考えてみよう。
 
 この場合、貸し手である民間銀行は、借り手である家計Aに対する貸出50の実行に合わせて、家計Aの預金口座を開設し、そこに預金50をチャージするのが一般的である。このとき、民間銀行は、図表1の自らのバランスシートの資産側に貸出50、負債側に預金50を追加する帳簿上の操作を行うだけである。これは「信用創造」の基本的な機能であり、民間銀行のバランスシートは、以下の図表2のようになる。

 その際、借り手である家計Aが、B社との不動産売買の資金決済のため、預金50を現金として引き出す可能性も完全には否定できないが、通常、大量の現金を資金決済のために持ち運ぶのは防犯上のリスクが極めて高い。このため、不動産の買い手である家計Aは預金50を現金として引き出すことはせず、家計Aが振込手続を行い、B社の口座に預金50を振り込むのが一般的で、資金決済で民間銀行の準備や預金の総額は何も変わらない。

「マイナス金利や異次元緩和により銀行貸出増」は根拠なきデタラメであるの画像3図表2

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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