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ツタヤ図書館、小中学校で実質的なTカード勧誘活動を展開…教師は説明受けず憤慨

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
ツタヤ図書館、小中学校で実質的なTカード勧誘活動を展開…教師は説明受けず憤慨の画像1読書通帳(「多賀城市立図書館 HP」より)

「事前の説明なんか何もないですよ。卒業式前日の3月17日お昼頃でした。突然、『職員室に取りにきてください』と校内放送があって、バタバタと生徒に配っただけです。生徒には1枚の案内がついていましたが、担任の教師にはそれすら渡されませんでした」

 そう憤慨するのは、宮城県・多賀城市内にある小学校の女性教師である。生徒に配布されたのは、「読書通帳」なるシロモノ。最近各地の公共図書館で導入され始めている読書推進ツールなのだが、“ツタヤ図書館”で配布されたとなると、話は少しややこしくなってくる。

 それにしても、小学校の教室で生徒全員に配布されるのに、担任の教師がその内容について一切知らされないということがあっていいのか――。

読書通帳で子供の読書習慣向上に寄与

 レンタル店「TSUTAYA」を全国展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する公共図書館、通称・ツタヤ図書館。宮城県多賀城市立図書館は、そのツタヤ図書館の全国3番目の事例として3月21日に多賀城駅前の新しいビルに移転、リニューアルオープンした。同館が、先にできた2館にはなかった新しいサービスの目玉として打ち出したのが、読書通帳である。

 読書通帳とは、図書館が発行する預金通帳スタイルの記録簿のことで、館内に設置されたATM(現金自動預け払い機)に似た機械にこの通帳を入れると、借りた本が随時記録される。

 図書館の利用者が「借りて読んだ本の一覧」を毎回記録することで、まるで貯金が増えるかのように目に見えるかたちで読書記録がつけられる。読書の動機づけや励みにするのが目的だ。とりわけ子供たちの読書推進に効果的なツールと関係者の評価も高い。

 開発販売しているのは、事務機で有名な情報商社の内田洋行だ。担当者は、こう話す。

「2月末現在、読書通帳は12の自治体で導入されています。だいたいどこでも小学生以下の希望者には無料配布していて、大人は実費負担です。特に、子供の読書推進に効果を上げていて、これによって大幅に子供の読書量が増えたところも多いです」

 その典型例が、2014年にリニューアルした大阪府の八尾市立・八尾図書館だ。新図書館への移転と同時に読書通帳を導入したところ、目覚ましい効果が出たという。

ツタヤ図書館、小中学校で実質的なTカード勧誘活動を展開…教師は説明受けず憤慨の画像2読書通帳機(「多賀城市立図書館 HP」より)

「児童書分野の貸出点数を見ますと、前年の13年度が17万4794だったのが、導入した14年度は32万3480と、2倍弱まで伸びています。施設が新しくなって全体の来館者が大幅に増えましたので、純粋に読書通帳だけの成果とはいえないですが、読書通帳導入によって児童の読書習慣の底上げ効果があったのは確かだと思います」(八尾図書館広報担当者)

 もともと、利用者が図書館で借りて読んだ本を手書きで記入する手づくりの読書手帳は全国各地であったが、手書きでは不便なため、図書館システムと連携して自動で印字できるように製品化したのが内田洋行の読書通帳だった。

 本を借りた際、カウンター横に設置されている読書通帳機に事前登録した自分の通帳を入れると、貸出日や本のタイトルが印字される。通帳1冊につき216冊のタイトルが記録可能だ。

システム導入費用は600万円

 多賀城市が導入したのも同社製の通帳で、前述のように市内の小学生には学校を通して全員に無料配布されたほか、中学生及び未就学児童には、図書館窓口で希望者に無料配布中だ。大人は、実費相当の300円で購入できる。

 子供たちの通帳発行費用については、通帳広告欄に企業名が掲載されるスポンサーを募集して調達するのが一般的で、多賀城市の場合も地元の配電機器メーカーがスポンサーとなって、市内の小中学生7000人分の通帳発行費用210万円をまかなっている。

 気になるのは、読書通帳システムの導入費用だ。いったい、いくらかかったのだろうか。

 同市教育委員会に問い合わせたところ、卓上型の廉価版を2台設置し、その税別の見積額は276万2900円。ほかにサーバー管理用端末及びそれらの設置費用、システム構築費用が本体よりも高い281万610円(税別見積額)もかかっている。税込みトータルで、およそ600万円である。

 内田洋行によれば、標準タイプの場合、システム費用込みの価格は1台500万円程度で2台目以降はその半額となるのが通常だという。つまり、卓上タイプを導入することで少し導入コストを抑えたのは確かだが、それでも、決して安いとはいえない。

 新図書館への移転にあたって3万5000冊の蔵書を追加購入したが、そのうち1万冊超は新刊ではなく中古本にして経費を削っていた。そんな節約志向の多賀城市とツタヤ図書館が、子供たちの読書推進効果が期待できるとはいえ、600万円もの費用をかけて新システムを導入するのは矛盾するように思えてならない。600万円あれば、1冊平均2000円の新刊を300冊も仕入れられる。新刊を購入せず、読書通帳を導入した意図はどこにあるのか。

読書通帳配布の狙いはTカード会員の勧誘?

 図書館関係者は、読書通帳の問題点を次のように指摘する。

「図書館を訪れた利用者のうち、読書通帳を希望する人に配布することは特に問題ないと思いますが、学校単位で児童全員に配布するのはやりすぎです。全国初のツタヤ図書館である武雄市図書館では、Tカード機能付きなどの図書館利用カードを学校単位で市内全小学生に一括で申し込みさせたところ、『教育現場で子供たちにTカード会員の勧誘をするのは何事か』と激しい批判を浴びました。そこで多賀城市では、図書館利用カードの勧誘を学校では行わず、代わりに読書通帳を配布したのでしょう」

 ほかのツタヤ図書館同様、多賀城市立図書館でも図書館利用カードはTカード機能がついたタイプを選ぶ人が圧倒的に多い。読書通帳を配布された子供たちが図書館を訪れ、そこでTカード会員となる可能性は高い。

 市教委は、読書通帳を配布する狙いを次のように明かしている。

「読書通帳は、そのままでは使えないので、まずは図書館利用カードを作成してもらいます。読書通帳を利用者IDに紐づけ登録することによって初めて使用できます。読書通帳配布は、図書館の利用カード作成を促すということもひとつの狙いとしてあります」

 つまり、読書通帳を配布することで図書利用カードを作成させたいというのが本音なのだ。読書通帳という“エサ”を撒かれ、子供たちはそれを持って図書館に足を運ぶ。そこでは、ほとんどの子供たちがTカード機能付きの図書利用カードを選択する。事実、現時点までの図書利用カード作成者のうち、約9割はTカード機能付きを選択している。小学校で児童全員に通帳を配布することは、取りも直さず小学生にTカードを勧誘しているのに等しい。

 ツタヤ図書館で図書館利用カードに付加しているTカードについては、4月1日付当サイト記事『Tカード、ツタヤ図書館利用し会員拡大&個人情報収集…加盟店には多額負担強制の実態』をはじめとして何度か取り上げているように、加盟店で商品やサービスを購入してTカードを提示すると、購入額に応じてポイントを付与される代わりに買い物履歴がCCCに把握される。

 CCCは、その情報を自社のマーケティング戦略立案や会員への生活提案に使用するだけで、ほかの目的には一切使用しないとしているが、個人情報や行動履歴が筒抜けになっており、いつどこで漏洩するかわからないという漠然とした不安は、多くの人が抱くのではないだろうか。

 Tカードがそのような危うさをはらんでいるのに加え、ツタヤ図書館において読書通帳の情報まで紐付けられれば、新たな個人情報流出リスクを背負うことになるため、読書通帳について否定的な意見も出始めている。

読書通帳で個人情報流出の危険がさらに高まるおそれ

 そもそも、読書通帳の「貸出履歴印字機能」は、図書館が堅持するべき「利用者の個人情報保護」という基本方針とは根本的に相いれないものだ。

 貸出履歴は、「他人に知られたくない個人情報」として、厳密に管理されることが求められる。その保証があってこそ、市民は安心して公共図書館を利用できる。しかし、その履歴が収集保存されてTカードと紐付けられることは、たとえCCCに情報が伝わらないとの規約があるにせよ、情報流出のリスクと比較考量して公共図書館の基本原則から大きく逸脱するのではないか。

 内田洋行の担当者は、履歴は保存されないと強調する。

「図書館システムに連携している読書通帳は、本を借りた直後から返却するまでのみ印字できる仕組みで、返却後はデータが削除されるため印字できません。利用者の皆さんは、借りた後すぐに通帳機で記帳されます」

 しかし、前出の図書館関係者は、それでも危険がないわけではないと指摘する。

「すでに、読書通帳の危険性はインターネット上でも話題になっています。結局、読書通帳専用のサーバーに一度は個人情報を送らないといけないため、その運用がずさんになされるとTカード機能付き図書館利用カードと同じく、その貸出データが流出するおそれはあります」

 このように、読書通帳導入によってTカード機能付きカードも含めて二重の個人情報漏洩リスクにさらされることになるのだ。ましてや、子供たちの個人情報については、極めて慎重な対応が求められる。それにもかかわらず、冒頭の教師が憤慨するように、なんの説明もなく生徒に無造作に教育現場で配布するという市教委の対応は、あまりにも配慮に欠けた行為で、批判されてしかるべきといえる。

 前出の教師はこう嘆く。

「子供たちに通帳と一緒に配布された案内書を見たところ、Tカード機能付きと普通のカードから選択できると書いてありましたが、そういうことも含め事前に説明はありませんでした。私たち教師も、Tカードについては何も知らないのです」

 もちろん、子供が図書館利用者カードを作成するには、保護者の同意が必要とされてはいるものの、学校で配布する以上、教師にも情報提供が必要だったのではないか。

 次回は、読書通帳を導入した自治体で起きた、とんでもない不正行為事件を紹介したい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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