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ツタヤ図書館、CCC作成の約6千冊選書リストをたった4日で審査・決裁

文=日向咲嗣/ジャーナリスト

「えっ、3万5000冊? 3500冊の間違いではないですよね?」

 ある出版関係者が思わずそう聞き返したのは、ある公共図書館がリニューアルオープンする際、新たに追加で購入した蔵書数である。

 日本国内において、1年間に刊行される新刊書籍の総点数は、およそ8万点。その半数近くを片っ端から買いまくってようやく達成できる冊数といえば、いかにそれが並外れた数なのかがわかるだろう。

 さらに、その購入リストを見てみると、中古はもちろん、新刊で購入する書籍でも、なぜか刊行年の古いものが目立つ。最新刊だけでなく、わざわざ古い本を大量に購入するのは、いったいなんのためなのだろうか。

 舞台は、宮城県にある多賀城市立図書館。レンタル大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、2013年の佐賀県武雄市図書館、15年の神奈川県海老名市立図書館に続き、公共施設の空間プロデュースから運営までを手掛ける「ツタヤ図書館」として、3月21日にリニューアルオープンした。

 これまで本連載記事においてたびたび報じてきたように、同館においては次々と不祥事が噴出している。なかでも、当サイトが独自に追及して大きな反響を呼んだのが、追加蔵書として購入した書籍に古本が大量に混入していた“選書事件”である。

 同館が購入した蔵書は、「鮮度が命」の生活・実用書ジャンルでも、ダンボール一箱いくらで叩き売りされている「バルク本」と見紛うようなラインナップだった。古本屋が買取可否の目安とする5年超経過したものが4348冊、うち刊行から10年以上経過したものが1493冊も混入していたことが判明。リニューアル直前に除籍・廃棄処分にしていたよりも古い本も購入していた実態が明らかになり、「CCCは、ただ同然で仕入れたものを高値で市に売り付けたのではないか」といった批判が巻き起こり、「公金の不適切な支出」と指摘されるまでに発展した。

 しかし、同館の追加購入蔵書のメインは、新刊書籍である。当初の計画では、追加購入予定蔵書数は、全体で3万5000冊。購入予算は、総額5250万円。平均単価は、新刊2000円、中古1000円だ。

 昨年1月にCCCが市に提出した見積書段階では、このうち半数の1万7500冊を中古で購入する計画だった。ところが、なぜかその後計画を大幅に修正。結局、新刊を6割の2万1000冊に増やし、中古本を4割の1万4000冊に抑えることとなった。

 武雄市図書館や海老名市立図書館でも大量の中古本を購入していたことが問題視されたが、多賀城市立図書館が前2例と異なるのは、2万冊を超える新刊を購入している点である。

そこで今回から数回にわたって、新刊選書リストを詳しく分析した結果をレポートしていきたい。

 多賀城市立図書館は、3万5000冊の蔵書をどのようなスケジュールで購入したのだろうか。下の表は、追加蔵書購入スケジュールの全日程を選書リスト及び、それに関連した市の起案文書から抜き出してまとめたものである。

 昨年6月16日付で、5269冊に及ぶ選書リスト(中古分)がCCCから多賀城市教育委員会に初めて提出された。それを皮切りに、今年3月2日の201冊まで約9カ月間、11回にわたって選書リストが提出されている。その結果、中古1万1980冊、新刊2万1650冊の購入が決定されている。

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市教委の確認体制に不備?

 まず注目すべきなのは、市教委のチェック体制である。

 過去記事でも見てきたように、原則としてCCCが作成して提出してきた選書リストの素案を市教委がすべて細かくチェックし、「適正」(選書基準に合致している)と判断した書籍のみを購入許可するという流れになっている。

 その結果、第4回を除く第1~5回の一部までの中古本に関しては、市教委が多数「受入拒否」としており、特に第3回に至っては全体の24%と、ほぼ4冊に1冊の割合で「受入不可」扱いになっていたことが判明した(参照:http://biz-journal.jp/2016/07/post_15733.html)。

 武雄市図書館の不適切な選書問題が大きな問題となり、CCCが謝罪文を発表した直後の昨年9月15日に提出された第3回リストには、刊行から10年以上経過した古い本は1冊もなくなっていた。

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 CCCによる中古選書の内容のひどさに業を煮やしたのか、第4回に至っては市教委自らが新刊の児童書、歴史・郷土を中心にした選書を行い、CCCに有無をいわさずそれらの購入命令を出すにいたった顛末は、7月3日付『ツタヤ図書館、ついに不信強める市が大量「古本」選書を拒絶!CCC関連会社から大量購入』で報じた通りだ。

 様相が一変するのは、第4回以降の新刊に関する選書である。驚くべきことに、中古本のケースとは打って変わって第4回から第11回の新刊選書リストにおける「不許可」が1件もない。つまり、新刊に関しては、実質的にほぼノーチェックで多賀城市教委はCCCの提案を受け入れている。いずれの回も、結果的に在庫がなく納本されなかった「受入不可」(または汚破損で返品)が5~10パーセントあるのみである。

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「東京の図書館をもっとよくする会」の池沢昇氏は、新刊の全8回にわたる選書スケジュールをこう分析する。

「年末年始を除く多くの回では、毎週火曜日に選書リストがCCCから提出され、翌々日の木曜日に担当係が起案を作成し、金曜日に決裁が終了するというパターンです。第8回などは5887冊と、ほかの回の倍以上の冊数で、なおかつ水曜日が祝日にもかかわらず、通常パターン通り木曜起案で金曜決裁されています。決裁には10人を超える押印がなされていますが、新刊に関しては厳重なチェック体制が敷かれているとはとても言い難いと思います」

 確かに、市教委の担当者と上役が、実質3営業日で数千冊のリストを丹念にチェックするのは、いくらなんでも無理がある。では、中古本部分だけを厳しく審査したのかといえば、必ずしもそうとは言い切れないと池沢氏は指摘する。

「第5回は、総数5631冊のうち中古本が1700冊ありますが、その12.2%にあたる208冊も受け入れ不許可となっています。しかし、図書館推進移転係は、リストを受け取った翌々日にチェックを終えて起案しています。果たして、それで十分な審査をしたのか疑問です」

 実質2日程度で、中古本1700冊のリストを細かく審査するのは不可能だ。不許可とした理由も不明瞭で、とりあえず形だけ拒否したようにしか思えないと言う。

 つまり市教委は、新刊は無条件で受け入れ、中古本に関しては当初から強い警戒心を抱き、審査内容のいかんにかかわらず、受入不許可を連発しているようにもみえる。

 いずれにしろ、市教委は早くから図書館に大量の古本を納入することの不適切さを強く認識していたことがうかがえる。それにもかかわらず、刊行年の古い中古本の購入をすべて取りやめるといった有効な手立てを講じることなく、最後までCCCの選書を受け入れてしまったのである。市教委は、その点、市民から厳しく非難されてしかるべきだろう。

 次回は、購入した蔵書の納入時の問題点を紹介したい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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