
2013年9月、日本は「2020年東京五輪開催決定」に沸き立った。競技会場の多くは江東区の湾岸エリアに設置される計画であった。
開催決定直後から、湾岸エリアで販売中のタワーマンションのモデルルームには人が押し寄せた。冷え込んでいたマンション需要が、東京の湾岸エリアで一気に爆発したのである。特に、それまで販売が不調だった江東区埋立地のタワーマンションが急激に売れ出した。
『マンション格差』(榊淳司/講談社現代新書)
そもそも、五輪競技会場の設営場所がなぜ湾岸エリアに多く予定されたかというと、そこは比較的新しい埋立地で、土地が空いていたからにほかならない。特に競技会場が集中することになっていた有明エリアは、まだまだ開発途上。埋立地らしい風景が今も残っている。道は広くてまっすぐ。巨大な建物やマンションがポツリポツリと立っている。開発は全体の3割も終わっていないはずだ。
10年くらい前までは、マンション業界にとって湾岸埋立エリアは一種のフロンティアであった。比較的事業用地が入手しやすい。しかし、交通のインフラが整っていないので販売には不安がある。いわばチャレンジすべきエリアであったのだ。
この10年間に東京の湾岸エリアの新築マンション販売で、広告に起用されたタレントさんたちの一部である。実にそうそうたる顔ぶれではないか。逆にいえば、彼らのイメージを借りなければ売れない、と売主企業たちは考えていたことになる。それだけ、大手のデベロッパーは湾岸の埋立地で開発を行うことに対して、ハンディキャップを感じていたのだ。
それが、東京五輪開催の決定で一気に覆る。湾岸のイメージは未来に向かって光り輝くものへと変わった。そのせいか、ここ3年間に売り出された湾岸エリアのタワーマンションで、タレントを起用していた物件はほとんどない。つまりは、タレントのイメージを借りなくても売れるようになった、ということだ。そのことにはオリンピック開催決定が大きく寄与していると思われる。