2012年12月に始まったアベノミクス景気が、バブル期を超えて戦後3番目の長さになった。現在の景気は、安倍政権の経済政策が功を奏しているのか。
これについて日本経済新聞は、景気回復の実感が乏しいとして、その理由に潜在成長率の低下を挙げている。マクロ経済分析の問題であるにもかかわらず、金融緩和に触れていないのは不思議だ。
景気の動向は、内閣府が作成する景気動向指数によってみることができる。景気動向指数の一致系列指数によって、景気が改善または悪化しているかにより、回復期か後退期なのかが判定されている。
景気動向指数の一致系列指数としては、以下が挙げられる。
・生産指数(鉱工業)
・鉱工業用生産財出荷指数
・耐久消費財出荷指数
・所定外労働時間指数(調査産業計)
・投資財出荷指数(除輸送機械)
・商業販売額(小売業、前年同月比)
・商業販売額(卸売業、前年同月比)
・営業利益(全産業)
・有効求人倍率(除学卒)
これらをみてもわかるが、幅広い経済部門から経済指標が選ばれている。
一致系列で指数は、生産面に重点が置かれている。筆者は経済を分析する際、第一に雇用、第二に所得をみる。つまり、雇用が確保されていれば経済政策は及第点であり、その上で所得が高ければ、さらに満点に近くなる。それ以外の指数、例えば輸出や各産業別の景気分析、所得の不平等などは、人それぞれの価値判断が入るので、評価の対象外にする。経済をシンプルに考えているので、景気判断に必須な経済指標としては、失業率(または有効求人倍率、就業者数)とGDP統計でだいたいの用は足りる。
こうした筆者の立場から見ると、景気動向指数の一致系列指数は、生産面の指標が重複し、雇用統計が足りないと考える。今の失業率2.8%はバブル景気以来なので、及第点を与えられる。ただし、14年の消費増税以降は消費が伸び悩み、GDPはそれほどでもないので満点とはいえない。
前出の日経新聞のように雇用を重視しない解説をみていると、経済がわからなくなってしまう。同紙読者は大企業正規雇用者が多いと考えられるので、雇用など確保されていて当然というスタンスなのかもしれない。その立場からみれば、雇用政策たる金融政策には関心がなく、金融市場に影響を与える金融政策にしか興味がないのかもしれない。
雇用を経済政策のミニマムラインとする筆者からみれば、アベノミクス景気は実感できる。筆者の勤務する大学はいわゆる一流校ではなく、そのときどきの「景気」によって、就職率が大きく変化する。4、5年前には卒業生の就職率が芳しくなく、なんとか学生を就職させるのに四苦八苦だった。ところが、今や就職で苦労することはかなり少なくなった。この間、学生の質が向上したとはいえないにもかかわらずだ。これは、アベノミクスの金融緩和によって失業率が低下したことの恩恵である。