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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

42年間ずっと客殺到の原宿「極上の喫茶店」…「特等席」カウンターから見える珠玉の光景とは

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

 自由が丘店はカウンター席、少人数席、大人数席があり、大人数席の中央には新鮮なバラが置かれている。原宿店もそうだが、都内の薔薇専門店「ローズギャラリー」から、当日朝に摘んだばかりのバラが14本届けられる。週に一度のペースで花を取り換えるという。これも長年続けている「しつらえ」だ。一連の取り組みには、空間デザインという言葉よりも、昔ながらのしつらえという言葉を用いたくなる。フランスに学び、都内で行う“フレンチスタイル”は、「変わらないことも文化」である欧州の世界観が息づいているようだ。

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 ただし、林氏が残念に思うのは消費者意識の変化だという。

「昔に比べて、本物や本質をわかる人が少なくなったように思います。たとえば、器についての世界観を語る人も減りました。また、最近のカフェでは、百円ショップで買った食器で提供する店もある。資金的な都合もあるでしょうが、お客さまへのもてなしという姿勢では疑問に感じます」(同)

 ペットボトルのお茶の新商品を取材すると「急須で淹れたお茶の味に近づけた」と説明を受けることもある。これも、若い世代を中心に「お茶の味=ペットボトル飲料」という意識が高いことと関係する。林氏の懸念は「頭で味わう」文化の衰退にもつながりかねない話だろう。 

人生の “思い出”につながるカフェ

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 もともとカフェ(喫茶店)というのは、飲食の提供だけでなく、客側の立場では「人と人の出会いの場」でもあり、「地域のしゃべり場」の一面もあった。最近はクールな空間が持ち味の店も増えたが、ひとりで過ごしたり、友人・知人と語り合ったり、読書をしたりなど、レストランや居酒屋とは違い、思い思いに過ごせるのがカフェのよさだ。

 我田引水で恐縮だが、2014年に上梓した拙著『カフェと日本人』(講談社)の「あとがき」末尾に、こう記したことがある。

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誰もが、人生において記憶に残るカフェがあるのではないだろうか。
ここまで目を通していただいた、あなたにお聞きしたい。
「もう一度、訪れてみたいカフェは、どこの何という店ですか?」
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 この思いは今も変わっていない。アンセーニュダングルには、学生時代に来たお客が長年の時を経て再訪し、「この店は変わらないね」と言われることもあるという。

 原宿店を取材し、カウンター内の林氏を撮った際に印象的な写真があった。同氏の左側に写っているのは、40年ほど前の若き日の姿だ。出会いと別れの春は、自分を振り返ることも多い時季。時には上質な店で、思いにふけるのもいいかもしれない。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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