ディズニーランドの人気アトラクション「カリブの海賊」に登場する“花嫁オークション”が「女性差別だ」との批判を受け、アメリカやフランスで次々と変更されていることをご存じだろうか。
「カリブの海賊」は、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ)の原案となったことでも知られる、来場者がボートに乗って海賊の世界を体験するアトラクションだ。問題の“花嫁オークション”は、赤毛の女性や村の娘たちがロープでつながれ、海賊たちにオークションにかけられるシーンのことを指す。
これが海外で「女性が売買されるのは性差別だ」などと批判を浴び、アメリカなどのディズニーランドでは“戦利品オークション”に変更されたという。
とはいえ、そのアメリカでも「伝統ある作品を変更するなんてひどい」「花嫁オークションも歴史の一部だ」といった意見が噴出しており、物議を醸している。はたして、これは「歴史の歪曲」なのだろうか。
時代に合わせて表現を変えてきたディズニー作品
「ディズニーランドの対応を『歴史の歪曲』と批判するのは、論点がずれています」と話すのは、映画評論家の前田有一氏だ。
「まず前提として、ディズニーランドは『ファンタジーの世界を楽しむテーマパーク』であり、歴史を学ぶアカデミックな目的で訪れる人はほとんどいません。これまでもディズニーランドはゲストが求めるファンタジー性を重視し、バージョンアップを繰り返してきました。今回の“花嫁オークション”の変更も、ある意味で時代の要請といえるのではないでしょうか」(前田氏)
実は、「カリブの海賊」が内容を変更するのは今回が初めてではない。たとえば、以前は海賊が村の娘を追いかけ回すシーンがあったが、やはり「女性差別だ」との批判を浴びて別のシーンに変更している。
それはザ・ウォルト・ディズニー・カンパニーのメイン事業である映画も同様で、時代に合わせて差別と捉えられかねない要素を削除してきたという。
「歴史的な背景もあり、アメリカでの差別表現に対するジャッジの厳しさは日本の比ではありません。特にディズニー作品はアメリカを象徴するコンテンツだけに、イメージを悪くしないために相当なリソースを割いているはずです。1990年以降、『アラジン』(92年)、『ポカホンタス』(95年)、『ムーラン』(98年)と白人以外のキャラクターやヒロインが増えたのも、人種の多様性を意識した結果でしょう」(同)
大ヒットした『アナと雪の女王』(ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ)は2人のプリンセスを主人公とするディズニー初のダブルヒロイン作品で、実写版『美女と野獣』(同)にはディズニー初となるゲイキャラが登場する。いずれも、「男は強くて女は弱い」「男女が愛し合うのが正しい姿」といったステレオタイプを打ち破る作品といえる。
「ディズニーによるモチーフや表現の変化は、時代の流れを知るひとつの基準ともなり得るのです」(同)