CMでもおなじみで、インフルエンザの季節には人気が高まるウイルス除去・除菌製品の「クレベリン」は、二酸化塩素の効果によりウイルス・菌・臭いを99%除去するといわれている商品だ。
このクレベリンといえば、簡単に室内のウイルス除去・除菌などをできる手軽さが多くの消費者に支持される一方、使用者からは「独特の匂いが耐えられない」「のどが痛くなった」「気持ち悪くなった」との声も聞かれ、人体への悪影響を懸念する指摘もみられる。
そこで、クレベリンの有効性や人体への影響、使用上の注意点などについて、薬剤師の小谷寿美子氏に解説してもらった。
クレベリンを初めて使うときは、独特の塩素臭がするので「大丈夫かな?」と不安になるかもしれません。
この二酸化塩素は不安定なガスです。不安定だからこそ、何かとくっついて安定になろうとします。それが空気中のウイルスだったり、細菌だったり、臭いだったりします。それらに付着したのち、二酸化塩素自体が安定になる替わりに相手物質を不安定にして破壊します。ウイルスを破壊すれば抗ウイルス作用となり、細菌なら殺菌作用、臭い物質なら消臭作用となるのです。
日本産業衛生学会の作業基準には、二酸化塩素の濃度について規定がありません。つまり、どれだけの濃度になれば危険になるかがわからないのです。そこでアメリカ合衆国産業衛生専門家会議(ACGIH)の作業基準を参考にします。これによると、TWA(作業者が安全に働ける濃度)が0.1ppmと規定されています。ちなみに塩素は0.5ppmなので、毒があるといわれている塩素より低い濃度にしないと安全に作業できないと規定されています。
またラットの吸入による急性毒性をあらわすLD50(実験動物の50%が死ぬ濃度)は、塩素が146ppmに対して二酸化塩素が32ppmでした。この数字は小さいものほど毒性が強いです。たった32ppmで半数のラットが死んでしまうので、二酸化塩素というのはかなりの毒性があるといえます。
40%の人が部屋にいたくないと思っている
このクレベリンですが、メーカーの情報によると6畳相当(25平方m)閉鎖空間で二酸化塩素(0.01ppm)により、浮遊ウイルスの一種を180分間で99%除去、浮遊菌の一種を120分間で99%除去することを確認しています。開封してすぐに濃度が高くならないように、メーカー独自の放出技術が施されています。
国民生活センターが調べたデータによると、他メーカーでは開封して1日後に0.1ppmを超えてしまうものがありました。一方、クレベリンは1日後6畳で0.06ppm、5日後0.03ppmでした。他メーカーでは放出技術が十分ではないため、開封後の濃度が多くなってしまうものがあります。
使用者は、独特の塩素臭に対して不快に感じることがあります。国民生活センターの調査で、そのレベルが0(無臭)から5(今すぐ逃げ出したい)のなかでどれかを尋ね、結果を集計したデータがあります。クレベリンはレベル3以上が40%でした。程度の差はあるとはいえ、「部屋にいたくない」と思っている人が40%いたということです。そのため、注意事項があります。
・鼻先で直接吸い込まない。
・成分臭を感じた時は換気する。特に寝室では成分臭を感じないことを確認してから使用する(使用開始から数日は成分が多く出る可能性があるので注意する)
メーカーの資料によると、0.05ppmと0.1ppmにおける毒性試験結果が公表されています。ラットを6カ月間これらの濃度の中に置くと、どうなるかという試験です。どちらも死亡例はありませんでした。他の障害例もありませんでした。
ここまでをまとめると、クレベリンは注意事項を守って使えば0.1ppmを超えることはないので安全であると考えられます。しかし、独特の刺激臭があるので臭いを感じたら換気をする必要があります。特に冬場は寒いので換気をしないことが多く、注意が必要です。
二酸化塩素の毒性について詳細がまだわかっていない
日本中毒情報センターに主な物質の毒性情報が公表されています。二酸化塩素については、まだ詳細がわかっていないため情報が公表されていません。塩素で起こる症状はわかっていることと、塩素より毒性が強いことはわかっているので、そこから類推して考えていきます。
塩素は粘膜刺激があるので、粘膜がある鼻やのどに対してその細胞を刺激し破壊します。
塩素によって、以下のことが引き起こされる可能性があります。
・0.2-3.5ppm 臭いを感じるが、耐性が生じる
・1-3ppm 軽度の粘膜刺激があり、1時間で耐性が生じる
・5-15ppm 上気道に中程度の刺激性がある
・30ppm 直後より胸痛、嘔吐、呼吸困難、咳が起こる
・40-60ppm 肺炎、肺気腫
・430ppm 30分以内に死亡
・1000ppm 数分以内に死亡
クレベリンでなんとなく感じている「のどが痛い」「気持ち悪い」といった症状は、二酸化塩素の中毒作用の初期症状といえます。それは塩素の作用と類似しており、濃度を高くしたら鼻やのど、そして肺への作用へいくのではないかと考えています。しかし、実際の症状はわかっていません。
(文=小谷寿美子/薬剤師)